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わたしは自分がなにを感じ―なにを考え-ているかを書いてみたいと思う(キケロ)
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オズワルドの手記

細い道は非常に長く、体力気力を失いそうになりながらも、注意深く歩いた。
両側から覗く深遠に飲み込まれでもしたら、堪ったものではない。
前方には巨大な山の頂がおぼろげに見えている。
そのゴツゴツした岩肌と数ある割れ目は、この先頂上への行程が、かなり厳しいものになることを予感された。

登山というよりも、山道を歩いているだけなのだが、それでも山の薄い空気と時折襲ってくるコウモリや、脳味噌みたいな物体に触手のついた化け物に襲われるのだからたまったものではない。

何度か休憩を挟みながら渓谷を歩いていくと、僅かな冷気を放つ青色の壁をした洞窟への道があった。
この渓谷の半分も歩いていないが、書き加えた地図が正しければ、西方向から方向転換して何時の間にか東方向へ歩いている。
今更渓谷を埋めるために戻るのも面倒だと陛下が仰有るため、洞窟へと足を踏み込んだ。
中に入ってみると、先ほど感じていた僅かな冷気は全くと言っていいほど無い。

よく見てみると、洞窟の入り口には「魔法使いの洞窟―立ち入り禁止」とあった。
一応入ってみたはよいが、途中鉄格子があって侵入出来なかった。
だが、洞窟のところどころに木製の支柱があるということは、確実に人の手が加えられた場所であることは間違いない事が分かったのは収穫であろう。
一度地上に出て、東側から入り込んでみる。

また洞窟があり、そこの入り口の看板には次のような文字が書かれていた。
「採掘場入場の場合、常時保護ヘルメット着用のこと」
ここはどうやら監獄ではなく、採掘場のようだ。
専用のヘルメットは被っていないが、皮製の兜は被っている。
無論陛下も。
城でクィークェグから購入したものがまさかこんな所で役に立つとは…。

洞窟に侵入したはよいが…
その構造の複雑さに、さすがの私も混乱した。
洞窟の中は一応照明はあるが、ところどころに光が差さない暗闇も存在する。
そして、その光の差さない場所の中にスイッチがある。
と、この様な手の込んだ細工がされているのだ。
休憩時に陛下と地図を確認し、
恐らくこれでこの階層は、全て探索し終えたことを確認した。
北東部にある鉄格子二つが気になるが、それは後回しだ。
自ら歩き書き記した地図を広げると、13ある下り階段があるのを確認した。
いったい何処から潜ろうか。
一瞬考えたが、どうせ全て下らなくてはいけないだろう…。
そう思い、一番北から潜ることにした。

細い通路に一枚の木のドア、そしてその先には小さな部屋。
そこには青い植物が生えていた。
それはゴムのようにしなる体で、
ここに来る前に襲いかかってきたヒドラ・プラント(人食い植物)に酷似している。
わざわざ危険を冒して、この避けることが出来る戦闘をする必要は無い。
そう考えた我々は階段を登り、地下二階を後にした。

次に、近くにある西の方向にある階段を下ることにした。
数歩いたところにまた下り階段を見つけた。
まだこの下に踏み込むのはやめておこう。
…分からなくなるから。
下り階段の分岐点を左に曲がり、周囲の探索を始めた。
歩いた先には、下り階段が更に一つ、登り階段が一つ。
階段を登ると、下りのときに使った階段と非常に位置が似ている。
この様子だと、13全ての下り階段は全てが全て独立した場所に繋がっているわけではないようだ。

頭がこんがらがりそうになる。

この複雑な迷路のような採掘場の隅―それもうっかり先程の青い植物が生えている小部屋に足を踏み入れてしまった。

こうなればやるしかない。
物陰にさっそく隠れられた陛下が呪文の詠唱を始めている。

この植物、本当にゴムで出来ているかのように弾力があり、なかなかダメージが通らない。
そこで私は、口を狙って貫くことにしてみた。
相手が口を開けた直後に長剣を差込み、大きく振り上げた。
どうやら刺す攻撃には弱いようだ。

一瞬怯んだ所に陛下の「ディープフリーズ(最強冷気魔法)」が決まった。
流石陛下。

植物の一部を引き裂くと、ゴム糸のようなものになって動かなくなってしまった。
伸縮性があるヒモ……これは使い道がある。
今まで拾った投げ剣―ダークというのだが、これがしょっちゅう散らばってしまうのだ。
これを結わえるのに使おう。


左の扉を開けると小部屋と小部屋をつなぐような部屋に出た。
通路の横にスイッチがある以外は、何も変わったことは無い。
スイッチを押してみると、壁が崩れ金属箱が置いてあったが、役に立ちそうなものがないので全て置いて行くことにした。

更に先に進むと通路に分岐点があり、左側には看板が立っていた。
「スミッティにようこそ! 鍛冶屋と食堂 修理と食事!」
と書かれている。

食堂!
久々にまともな物が口に入る―
私だけでなく、陛下もお喜びになっていた。
喜び勇み、その食堂へと足を踏み入れた。

中に入ると、年をとったドワーフが金床の向こう側から
こちらを見上げている。
真っ赤に焼けたトウモロコシに、
何やら仕事をしながらこういった。

「コンチキショウ! おらぁ忙しいだ、わかんねぇか?」

鍛冶屋は概してこのような頑固者や、やたらと気難しい者が多い。
だが、悪意は感じられない。

「申し訳ない、鍛冶屋殿。我々は今、食料がつきかかっているのだ。少し食料を売ってはくれまいか?」

するとドワーフの男は、表情と態度を変えて我々を歓迎した。

「おお、お客か。いいぞ、どれにする?」

次々と食材と武器を並べ始めた。
焼いたトウモロコシに、焼いた肉……
採掘場の中なのに随分と豪勢なものだ。

その肉が何の肉かはあまり気にしない事にした。
カブと水以外なら何でも歓迎出来る。

「ところで、何故こんなに武器を?」

「書いてあるだろ、スミッティの鍛冶屋と食堂って。
ドアの外に出てるだ!
それと、このおらの金床を使って色々修理するだ。
勿論、直すもんがありゃな」

500Gで焼きトウモロコシと焼き肉、そして幾分らかの蒸留酒を分けてもらい、それを食べながらも私はふと気になってスミッティに話しかけた。

「ところで、この採掘場で何を掘っておられる? 
鉄か、それとも金か銀か?」

「おら、掘れるだけ掘っちまった。もっと掘るのは無理だぁ!」

「そうか…」

ドワーフといえば、装飾物や金銀には目が無い。
そこで、不要になった解読指輪を持たせた。
すると、スミッティは大喜びし、次にもし修理したいものがあれば無料で直すという事を約束してくれた。


食事をし、さらに寝床を借り(ドワーフに恩を売るとここまでしてくれるものだらしい)て鋭気を養って再び我々は探索を開始した。

最南にある階段を下りると、その先はダークゾーンだった。
壁に手や剣を当てていくと、正面は行き止まりで左右に分岐されていることがわかった。
右へ向かってみると暗闇は晴れて水場とランプの付いた部屋に出た。
おそらく、ここは休憩所だったのかもしれない。
飲み水はまだ利用出来る。
口に含んだだけでも気力が復活するのは、恐らく採掘する者たちのために何者かが魔法で気力体力を回復出来るようにしたのだろう。

しばらく水を飲んだところで探索再開―

階段のところで分岐されていた暗闇の先を歩いた。
暗闇の最も奥は、デッパリのついた壁だった。
いや、壁ではない。何か違う素材でつくられたものだ。
そう考えた私はそれをつかんで捻った。
暗闇の中でドアがあると、全くそれはわからない。
一歩遅かったら、引き返していたのかもしれない。
そう思いながら、俺はドアを開けた。
すると、突然先ほどの青い植物が襲い掛かってきた。

ここを含めると、三箇所はこの青い植物を見ている。
が、既に我々は常套手段で絶対にこいつを倒す方法を知っているため、特に驚異ではない。
驚異になるのは、この採掘場を我が者顔で歩く蟻たちの方だ。
毒持ちの上に、数が多くて厄介だ。

さっさと倒して、またゴム糸を採取。
ふと、集めたゴム糸をまとめてみようかと、何気なしに持っていたゴムとゴムを組み合わせた。
これが後々思わぬ助けになるとは思わなかった。

このようにして探索を続けていくうちに、やっと長い通路がある部屋や、下へ降りるための階段を見つけた。
下るのはまだ早いので、この地下二階を探索してからだ。
我々はここで五つの下り階段を見つけた。
恐らくこれで探索はし終えた。
そう重い、一番近い左下の下り階段を使ってみた。
すると、またトンネルのような通路があり、上に登る階段を見つけ登ってみた。



陛下のお顔が疲労というより、苛立ちと採掘場を作った者たちへの怒りで青くなる。(陛下は激昂なさると真っ赤になるというより、血の気が引いて真っ青になられるタイプなのだ)

一体ここはどれだけ入り組んで入れば気が済むんだ。


陛下ならずとも、誰でもそう思うだろう。

そう思いながら通路を歩いていると、そこには大きな出っ張りが壁に張り付いていた。
何か出口かと思い押してみたら、ただ金属の箱が出てきただけである。
箱を開けてみると、そこにはハンマーと"のみ"を見つけた。

「いっそのこと、つるはしとのみで通路を1つにしてくれる!」

陛下…(涙)

自棄を起こされた陛下が勝手に階段を降りられるので、私も慌てて後を追った。
どんどん下ると、最下層に辿りついた様だ。
そこで陛下は足を止められていた。

否、足を止めていたのではなく、目の前にあるものを見つめておられたのだ。
そこには見えない壁が立ちはだかっていたのだ。

部屋への入り口は、この巨大なダイヤモンドの透き通った壁によって遮られていた。
そしてその内側に、今までに見たことも無いような奇怪な表情が浮かび上がっていた。
ダイヤモンドの内側で蠢く、その頭の様子から、どうもそれが単なる幻影ではなく、実際に何らかの魂が巨大な宝石の中にとらわれていることがわかった。
壁際に近づいてくるたびに、何かを語りかけようとしてくる。

調べてみると、そのダイヤモンドの壁面は四つの方向にあり、
やはりとは思ったが、通常の武器では傷一つ付かなかった。
ただ、先ほどの"のみ"を使うことによってのみ、その壁面に裂け目が出来た。
しかし、それは砕け散りはしなかった。

「やはり四方から砕かなくてはならないようだな」

そう仰有ると陛下はがくりとした。

「四方ということは…また階段の上り下りか…」

私までグッタリしてきた。
早くこの山を降りたくなってきた…







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今残っている鍵は、『鐘楼の鍵』だけとなった。
あの渓谷を渡るのに必要なものを探すため、例の鐘楼に登る事にした。

一階の西側にある塔を登っていくとこんな言葉が記されている銅板があった。

「鐘楼の開放は厳禁」

ドアを開けると、天井には大きな吹き抜けが見えた。
巨大な吹き抜けから上を見上げても、見えるのはただの暗闇だけだった。
しかし床の上には、小さな鼠のような生き物の死骸、血の痕、フン等上から落ちてきたものが散らばっていた。

螺旋階段を上り続け、最上階まで達した。
通路の先に大きくて黒ずんだ鐘が、鐘楼の頂上に静かにぶら下がっていた。
その鐘は薄黒いカビに覆われており、ところどころ蝙蝠の糞が染みを作っている。
そして、太くて長いロープが鐘から下の吹き抜けに下がっていた。
このロープを掴んで吹き抜けに飛び込めば鐘が鳴るのだろう。

「このロープを使って渡れば、きっと向こう側に飛び移れるだろう」

そう私は言ったが、兄さんと姉さんはあまりイイ顔をしない。
なんといっても、危険すぎる。
一歩間違えたら転落死だ。

「まあお前一人で飛び込んでも俺は別に気にしないがな」

…相変わらず冷たい兄だな。

「それに、フランソワ…。恐らく鐘楼にいるコウモリに襲われる危険もあるぞ」

「じゃあ、私一人で向こう側を探してみる。十分して戻らなかったら先に進んでくれ」

この提案に姉さんは猛反対しそうだったが、あっさり兄さんがOKを出したために私は鐘楼のロープをぎゅっと掴み、思い切って地面を蹴った。


ゴーーーーーーーーン


ゴーーーーーーーーーーーーーーン


鐘は鐘楼の住人の目を覚ましてしまったようだ。

「フランソワてめーーーッ!」

兄さんが激昂する声を背中で聞いた。
どうやら、コウモリたちは待っている兄さんと姉さんの方に襲いかかったようだ。

「兄さん、姉さん頑張れ」

小さい声で言って私はそっと探索に乗り出した。

といっても探索はものの一分で終わった。
向こう側には小部屋が1つしか無かったのだから。
鍵を使って開けると、そこには複数本の鐘のロープのスペアがあった。

そのうちの一本を俺はいただくことにした。
これに早速、フックにロープを結びつけて固く縛りつけた。
これは非常に重い。
少なくとも50ポンドはくだらないだろう。
こんな重いものは、さっさとしかるべきところで使ってしまおう。

そう思って再び鐘楼のロープを使って飛び移った時、いきなり兄さんの鉄拳が迎えてくれた。

「痛いじゃないか、兄さん。せっかく私が危険を犯して大事な物を手に入れたのに」

「何が大事なものだッ! お前のせいで俺は二度も毒コウモリに襲われて死にかけたんだぞ!」

「結局生きているんだからいいじゃないか」

「お前という奴はーーッ!」

不毛な兄弟喧嘩を派手にした後、私たちは例の渓谷へ向かった。

目の前にはまるで底なしの落とし穴のような巨大な渓谷が口を開いている。
鍵爪のついたロープを渓谷の向こう側に投げると、大きな岩に上手く引っかかった。
もう片方のロープの端を固定した岩に固定した後、ロープに命を託して、渓谷の向こう側に渡った。

勿論、私から先に、だった。

「兄さん重いから、最後に渡らないとな」

「やかましい。万が一落ちるなら、貴様も道連れだ」

ロープをつたって渡っている時もこんな喧嘩が出来るんだから、ある意味で私たちは余裕を忘れてないと思っている。

どこか、それほど遠くない辺りから何やら吸い込むような物音が聞こえてくる。
くちゃくちゃと何か食べているような音だ。

前方に不気味なものが横たわっている
…それは、ただそこにいるだけのようだ。
どうもさっきの吸い込む音は、これが立てていたらしい。
その不思議なものに気をつけて近づいてみると、根本のところに太い管のようなものが付いているのが見えた。
どうも植物らしい。

おっと! 



腹が減っているようだ!
それは素早い動きで、私たちに襲い掛かってきた。

緑の体をした食虫植物を巨大化させたもの、差し詰め人食い植物といったところか。
まるで肉食動物の口のように鋭い棘の付いた口を広げてガチガチと鳴らしながら噛み付いてくる。

いや、それだけじゃなかった。


姉さんが突然転倒する。
おかしい。
今まで何も感じてなかっ…

兄さんまでも倒れる。

気付くと、その植物の口から白い気体らしきものが吐き出されている。

その場で私は理解した。
あれを吸い込んではいけないと。
恐らく、危険地帯で引きずりこまれた死体たちは―こいつらの出す白い気体…霧を吸い込んで何も分からない内に食い殺されたのだろう。

私も段々目の前が霞んできた。
必死に起きようとしても、植物たちはさらに私までも眠りに誘おうとさらに白い霧を放出しだす。

まずい。
このままでは、私たち3人とも…


渾身の力を振り絞り、私は一か八かかけてアイスボールを詠唱した。
氷の嵐が降り注ぎ、植物たちがのたうち回る。
周囲の気温が下がったせいなのか、あるいは頭にアイスボールがぶつかったのか、兄さんがやっと起きてくれた。

「くそ、こいつらまだ生きてやがる…!」

しぶとい植物たちに手を焼いたが、それでも何とか姉さんも目覚めたおかげで何とかしのげた。
いつもと様子の違う獲物に一瞬戸惑ったことが命取りになったようだ。

兄さんの振り回した斧に切断された頭部(と思われる部分)が飛ばされた所で終わった。


「危なかったな…」

そう言ってさらに奥に進むと、「E-Zエレベーター 下り」と書いてある看板があり、その下には妙なスイッチがある。
それを押してみると、床がゆっくりと動き沈んでいった。

止まった所で、空気が先程より澄んでいるのに気付いた。
あの息が詰まるような城から出た開放感でいっぱいになる。

エレベーターを降りてトンネルを抜けて山から出ると、
目の前には巨大な渓谷が広がっていた。
いくつもの橋が、網の目のように谷の間に渡されている。
そして頭上―遥か彼方には、渓谷の真ん中辺りの最も深い谷から立ち上がる壮大な山の頂が窺えた。

ジャイアントマウンテン―

巨大な山の異名をとるのにピッタリだった。

皇帝フリードルムの手記

例の祭壇から落下した後、巨大な蛇に襲われた後、危険地帯で巨大ミミズに襲われる等本当にロクな目に遭わない。

とりあえず、死者の日誌(と勝手に読んでいる)の内容をクィークェグに伝えて暗号を聞き出した後、その日誌を押し付けた。
無用な長物をいつまでもずるずる持っていくのは面倒だ。

それと、例のスヌープチェリをル・モンテスに返してやった。

「ああ、スヌープチェリ! やっと会えたのう!」

そういうとル・モンテスはしばらくの間、ずっとその犬のぬいぐるみを猛烈な勢いで頬ずりし、ずっとハグしていた。


言うまでもないが、余もオズワルドもドン引きしていた。

そんな事はおかまいなしに、すっかりル・モンテスは上機嫌で我等に「船長の檻の鍵だ」と銀の鍵を渡してくれた。

どうやら、あの船長のねぐらにいるらしい。
後、ル・モンテスは彼等が川―それも霧の立ちこめる薄暗い川からやってきたと教えてくれた。
日記内であった、あの“霧”と何か関係あるのかも知れない。

ともかく、やっと我々は、今まで入れなかった“ねぐら”に入る事となった。


ドアに小さな隙間が開いた。
そしてその後ろから、不気味な声が響いた。
「兄弟ぇ、合言葉ぁを言ってくんなぁ」
余が「スケルトンクルー」と答えると、
その不気味な声は
「あたりだぁ」と返し鍵を開けた。

「はいんなぁ」

どうやら我々を入れてくれるようだ。

そこは小汚い部屋だった。
煙がもうもうと辺りに立ち込め、
いくつものテーブルの周りにはエールのビンや泡立つビールを持った
無法者の群れを成していた。
盗賊、追いはぎ、山賊、海賊、人殺し―
一つ屋根の下にこれだけの凶悪な者共が集まったことは、今だかつてなかったであろう。
部屋に入っていくと、全ての動きが止まった。
視線がこちらに集中し、死のような静けさが辺りを包む。
それぞれのテーブルをさっと眺めただけで、
金貨の山、トランプ、サイコロのところにかけてあるチップなど、
様々なものが目に入った。
そしてそういったものの一つ一つ、
汚らわしい顔の全てがこちらをじっと見つめていた。

絶体絶命と思ったまさにその時、
周りの何かがピンチを脱する手がかりになったという経験が無いわけではない。
今がまさにそのときである。
辺りに視線をめぐらす。
いくつもの顔、厚い煙の壁…
と、その遥か彼方、鉄格子の向こう側になにやら奇妙なものが居るのが目に入った。
しかめっ面にひねくれた笑みを浮かべ、赤い燕尾服、白いひだ付きのシャツ、青い半ズボン、黒い帽子、60センチもある長い巻き毛の黒髪といういでたちの人影が、その合資の向こう側にとらわれていたのである。
男は片目を黒い眼帯で覆い、肩には緑色のオウムのぬいぐるみを置き、顔には奇妙な表情を浮かべている。
しかし、何よりも一番目を惹いたのは男の右腕だった。
その本来なら右手があるところには、磨きこまれた金属製の鍵爪がついていたのである。


突然、目の前に異様な臭いをさせ、脂ぎったカエル面の太った男が立ちはだかり、空想の時間を大きなげっぷの音で遮った。
何と下品な男だ…。

「おいらぁマティー船長だぁ! ちっと待ったぁ、うすのろぉ!
新入りはぁ勝負に勝たねぇ限りぃ仲間には入れねぇんだぁ!
勝負の方法はぁ二つだぁ。御馴染みの戦いかぁ、もうちっと文化的な奴、そうよ、飲み比べ!
戦うかぁ、それとも飲み比べかぁ?」

…飲み比べのどこが文化的なのか小一時間問いつめてやりたい所だ。
その気になれば、オズワルド一人でもこの海賊の群を屠る事は出来るのだが、無駄な労力は使いたくない。
それに、ここ数日水とカブだけの日々だ。
余もオズワルドも、久々に飲める酒につい心が動かされてしまったようだ。

「…飲み比べを受けよう」

「おう、おいらの好きなぁ勝負でぇ。ハーハーハー!
いっちょ飲むかぁ」

しかし

「いっぱい50Gだ!買うかぁ?」



何!?
こちらが金を払うのか!?


…しかたない。

「はじめぇ!」


この勝負は一対一なので、オズワルドに任せる事にした。
なんといっても、余のスタミナは低いのだ。
オズワルドに比べると。

二人同時に杯をとると、凄まじい勢いで進んでいく。
みているこちらが「おぇっ」となりそうだ。

だが、マティーという男、どこまで底抜けなのだ。

十杯近くでも「フーッ、まだ飲んだ気がしねえ」と部下にガンガン注がせている。

「おめぇ、ちっと青くなってねぇかぁ?兄弟」

オズワルドにそう言ってきたのだが…。


あの黒仮面からどうやって表情を知ったのだ


しかし、オズワルドも少し危なそうだ。
いや、大丈夫だとは余は思っているのだが…マティーのザルっぷりを見ていると不安になるのも仕方ない。
どうせなら、ミカエルに当たらせればよかったか?とさえ思わされる。

そして15杯め辺り・・

「フーッ。たまんねぇなぁ…ウィーッ、ちっときいてきたぁ」



船長は酔い潰れた!

勝負に勝った!

その途端、どこかのテーブルで歓喜の声とこちらを呪詛する声が一斉にあがっていた。

無法者達は、飲み比べの間、それを楽しんで観戦するものや賭けをしていたらしい。
中には興味がなさそうに横目で見る程度のものや、完全に無視して他の賭け事をしているものたちもいる。

…おまえ等、船長の応援をするだろう、普通…。

だから無法者共は好かないのだ。
真義も何もないのだからな。

らんちき騒ぎを後目に、我々は奥へ進んだ。
無論、あの前船長をみるためだ。


ル・モンテスから受け取った銀の鍵を使って鉄格子を開ける。
鉄格子の中の鍵爪を持った海賊の死骸は
近くから見ると更に一層気味悪く感じられた。

鉄格子に鍵が掛けられているのには、それなりの理由があった。
というのは、その死骸に触れた途端、
灰と骨の山になってしまったからである。

後には、燕尾服、帽子、オウムのぬいぐるみ、眼帯、そして光り輝くかぎ爪しか残っていなかった。
燕尾服と帽子はあまりにも埃や腐敗がひどい様なので捨てる事にする。
眼帯も邪魔だ。
結局、余が手に入れたのはオウムのぬいぐるみとかぎ爪だけだった。
それにしても…
海賊の船長が、このようなぬいぐるみなど持っているのだろうか。
何かこれに執着している理由でもあったのだろうか。
ル・モンテスのスヌープチェリといい、
このオウムといい…何なんだ、この国の人間どもは。

と、緑のオウムを掴んで調べてみると、背中に小さな宝石がはめ込まれているのを確認した。
何故このようなものがあるのだろう? 
これも特別な力を持つ代物なのだろうか。
そう思い、試しに力を解放するために念じてみると、
余自身に何かの力が漲り、
オウムのぬいぐるみは粉々に砕けてしまった。

手元に残ったものはフックのみ。
これを見て思ったことは、先ほどの渓谷で見たフックが付いたロープだ。

何かロープを探せば、きっとあの渓谷をわたれるかもしれない。


あの褐色肌の少女たち―恐らくアマゾンの集団であろう―の後を追うことを諦めた自分たちは仕方なく危険地帯を抜け、
鉄格子を東から順番に可能な限り全て開けていった。
一番東の牢屋には骨が積み重なっている。
山のように積み重なっているのは、忘れ去られた囚人の骨だった。
それも鎖に繋がれたまま死んだらしい。

骨の間を探ってみると、指の骨のところに変わった指輪があるのが見つかった。
調べてみると、周囲に文字が掘り込まれていた。
 O L L Y R O G E R
J             S
あ            わ
 んごう・かいどくゆび

海賊の解読指輪を航海日誌の文字の上にかざしてみると、以下の文章を読めるようになった。

一応自分のメモに写してみた。


…相変わらず偵察隊からの連絡はない。
もう、残骸となった船は捨てるしかなさそうだ。
ちくしょうっ! この霧さえ晴れれば…

99
救命ボートで上流へ向かう。現在、生存者は9名。
モーガンの顔色が悪い。
症状は他の者と同様。彼も病気になったようだ。

100
朝、モーガンの容体が悪化。
夕方、死亡。
原因不明の病気に、皆恐れをなしている。
もしかすると、我々が毎日食べているこの鼠肉が原因かも知れない。


「ネズミの肉か…」

この城に来て、クィークェグと何度か交渉している。
大抵は武器防具だが、何度か干し肉を分けて貰っている。
後は、時折狂ったこそ泥たちが持っているカブが今の自分たちの食料である。

これだけでももうウンザリしている。

この城に入って(閉じこめられて)、日記をみれば4日しか経っていないが、実感としては数ヶ月近くさまよっているような心地だ。
極限まで来たら、自分たちも殺した魔物の肉を喰らう事になるかも知れない…。


次の数ページは汚れが酷く判読できなかったが、
その更に次はまた読めるようになった。

106
船長は、船に戻れば皆死んでしまうといっている。
しかし、このままではいずれ皆幽霊になってしまうだろう。
体が消え行く原因がわからない限り…

107
今朝、ゴルモン死亡。症状は他の者と同様。
ついに生存者は6名。
船長は宝箱を埋めなければならないといっている。
運ぶには重過ぎる。
こんなクソッタレ山から下りられるなら、なんだって歓迎だ…

109
ロスコウが岩棚のところでモーガンを見たといっている。
勿論、皆モーガンが死んだのは知っている。
どうも、皆少しいかれて来たのかもしれない。
少なくともロスコウはおかしい…

109
今日、モーガンを見た。
死んだはずのモーガンを見るなんて、俺も病気にやられたみたいだ。
あいつの顔は血だらけで、何も言わず、じっと俺の顔を見て笑ってやがる。
俺もいかれちまったらしい…

110
神よ守りたまえ! 
今日、宝箱を生めて山を降りる途中、巨大な怪物に出くわした。
アレは人間だったかもしれないが、
兎に角身の丈が3メートル以上もある。
ロスコウを捕まえ、頭を噛み切り笑いながら吐き捨てた。
我武者羅に逃げ切り、兎に角ここに来た。
ここが何処だかはわからない。
我々は完全に道に迷った。
船長はとにかく動き続けるしかないといっている。

111
ついに"ジャイアントマウンテン"から下山した。
尤も、これは勝手につけた名前だ。
かなり大きな渓谷が続き、
そこかしこに橋や渡り綱が張り巡らされている。
向こうのほうには一群の人影が見える。
何かを掘っているらしい…

112
ドワーフたちに声を掛けてみることにする。
もしかすると、助けてくれるかもしれない…

最後の数文字はインクがかすれてかろうじて読める程度で、その後は何も記されていなかった。
この航海日誌を見つけたところの骨のことを思い出してみるに、ドワーフは大して助けにならなかったようである。



しかし、我々にとってこの日記は非常に助かった。
何と言っても、この城に繋がっている山(ジャイアントマウンテン)の情報が分かったのだから。
そしてそこがどんなに危険なのかも。

だが、クィークェグが知りたい情報もここにあったのだ。
これで、海賊たちがたむろしているその部屋に入れる。



早速、開いた鉄格子を抜けて、クィークェグのところへ向かった。
"ジャイアントマウンテン"と呼ばれる所に宝はあることを伝えると、彼は大喜びした。

「ジャイアントマウンテン! なんてこった! 
何で気付かなかったんだ!
おお、そうだ…合言葉は"スケルトンクルー"だ。
情報、ありがとよ!」


スケルトン・クルー…
その言葉を覚え、自分たちは近くの部屋へと進んだ…




…ここの作者は俺のことが嫌いなのか?

本の通り、ボタンを押したところ、
祭壇の表面が大きく開き、中から暗闇に通じる穴が現れた。
穴の中に飛び込み、ドサッと言う音と共に落下した。

だが、

「兄上、すまない」

「いやあ、兄さんがクッションになったおかげでテレジア姉さんも私も無事ですよ」

この野郎…

テレジアはともかく、何でこいつまで俺の上に落下してくる。
俺一人だけがダメージを喰らうとはどういう事だ。(--メ)

ところが悪い事は立て続けに起こるらしい。
目の前の門の格子が開き、向こう側で何かが動いているのが目に入った。
門の向こう側で何かがまたもや素早く動いた。
それが矢のようなスピードで襲ってきたとき、唯一目に映ったのは、何かが動く微かな残像だけだった。
全長10フィートほどの巨大な矢の正体は、緑色の大蛇だった。

「兄さん危ないッ」

あの大蛇め、弱っている(と見えた)俺を集中的に狙ってきやがる…。
どうせ狙うなら、フランソワを狙えばいいものを…

と気付けば、すでにフランソワとテレジアは無事に物陰に隠れ、俺一人「かくれる」のに失敗していた。

…おい、プレイヤー!!
俺を殺す気かッ!!(怒)

気付けば、3ターンほど俺は失敗しつづけ、やっとかくれた時にはすっかり毒に犯され、あと一歩で死ぬ所だった。
だが、俺がかくれたのと同時に、フランソワの水系攻撃魔法「アイスボール」が蛇にクリーンヒットしてトドメを刺した…。

…くそ、これで何度目だ、手柄横取りされたの!!

毒なのか吐き気なのか分からないが、ともかくテレジアのススメに素直に従い、毒消しの薬を飲み(まずいんだな、これが…)
傷薬を使い、身体の不調を治した。
腫れて青紫になった傷口は徐々に元に戻り、軽い傷程度まで収まった。

「ああ、良かったですね、兄さん。なんたって、兄さんが頑張ってくれないと…」

なんか、こいつ(フランソワ)、勘違いしてるんじゃないか…。
というか、前々から鬱陶しい男だったが、最近懐いているような馴れ馴れしくなっている。
もしかしたら、この前いきなり落ちてきた天井の梁に頭をぶつけた時に、俺とこいつが敵対してるという事を忘れてしまったのかも知れない。

とりあえず、開いた鉄格子の門を通って地下へ向かった。
地下の通路はいくつにも分岐しているが、どれも鉄格子で通れない。
唯一つ通れる場所と言えば、「*危険地帯*」と書かれた坑道だけだった。

「危険地帯か…ぞっとしないな…」

テレジアでさえ、何か入るのを躊躇わせるような不気味な洞窟だった。
だが、この城のほとんどの部屋は全部見てしまったようなものだ。
それでも、クィークェグの求めている海賊の秘宝のてがかりは見つからなかった。
もしかしたら、この洞窟の奥にあるのかも知れない。

恐る恐る坑道に入って行き、東から順番に探索を続けていくと、巨大なミミズが現れた。
頭からかじりつこうとしてくる黒光りする大ミミズだ。
頭を狙い飛び込んできた瞬間、両手に持った長剣で迎撃した。
ミミズは長剣に突き刺さり引き裂かれた。
通路の袋小路まで来ると、沢山の骨がこの怪物の住処に転がっていた。
ここの怪物が、かなりの大喰らいだったのは間違いないだろう。
ここにムリヤリ引きずりこまれた犠牲者の遺物の欠片もいくつか残っていた。
破片の殆どはただのゴミになってしまっていたが、まだ使い物になりそうなものが一つ見つかった。
それはつるはしだ。これで壁を掘ることができる……そう思い近くの壁につるはしを突き立ててみたが、崩れそうもない。

「兄さんならイケるかと思ったんだが…。これはもっと柔らかい壁を崩すのに使うためのものらしいな…」

俺をブルドーザーか何かと勘違いしていたのか、フランソワ…。

別な通路を歩いてみると、散らばった骨を見つけた。
散らばった骨々は、少し冒険が過ぎた哀れな人々の末路を語っているかのようだった…。
骨の間を探ってみると、気になる鍵が見つかった。
どうやら、看守の鍵とは別の、牢屋の鍵らしい。

壁を調べてみると、最近そこを掘り返し、更にその後を石で埋めた後が見つかった。
まるで誰かが通路を掘り、そのあとを塞いでいったかのようだった。
つるはしで壁を崩した後ろには、金属の箱が置いてあった。
箱を開けてみると、長い棒、鉄の盾、磨かれた石が複数、飛刃の巻物を見つけた。

更に別な通路を歩いてみると、洞窟の入り口から落ちた石が、トンネルを潜る通路を塞いでいる。
その石はびっしりと積み重なっており、とても手で除けることはできそうになかった。
つるはしを使い、石を砕いて取り除くと、道が開けた。


「…って、何で俺ばかりにやらせるんだよ!」

「兄上がつるはしを持っていますし…」

「大体こういうのは長男の仕事と相場が決まってるんだろう?」

「貴様等、兄を何だと思って居るんだーッ」

いつもの様に喧嘩になりかけたとき、聞き慣れない言葉が聞こえた。
声からして女だ!!


女!!

うんざりしていた所だ!


見れば、奇妙な格好をした黒い女性達が目に入った。
顔には白い文様を書き込み、長い槍と盾を持っている。
しかも大胆なビキニ姿だ!
と、そのうちの一人が突然こちらを指差した。そしてあっと言う間に彼女たちは左の通路へ消え去ってしまった。

「兄さんが怖がらせるからだろう!」

「お前がどうせ色目を使ったんだろう!」

「兄さんじゃあるまいし!」

「なんだとッ!」

不毛な言い合いを弟としながらも、彼女たちを追ってみると、目の前にはまるで底なしの落とし穴のような巨大な渓谷が口を開いている。
その谷の向こう側では、奇妙な格好の黒い女性達が、蔓草で出来たロープを引っ張りながら、先を争って崖っぷちから立ち去ろうとしていた。
このままでは進むことが出来ないので、別な進路をとった。
通路の先の頭上には、上のほうに向かっている洞窟が暗闇へと続いている。

後を追うにも、何かロープがないと転落死は確実だ。

仕方ないので、洞窟の最奥まで進む。
先程の犠牲者たちを屠った、大食らいの魔物が出てくるのではないかと思っていたが、そんな事は無かった。
そこにはただ、足元に小さな動物の骨が散らばっているだけだった。
この洞窟に澄んでいる翼のある生き物の骨らしい…
何か変わったものは無いかと骨の欠片の間を探ってみると、
キラキラ光る金属やガラスの破片が見つかった。

光物が気を引いたのだろう。
これで足元に鍵が転がっていたことにも納得がいく。

これで手に入れた鍵は二つ。
数ある鉄格子をあけることが出来るだろうか。
それに期待しながら危険地帯を後にした。

皇帝フリードルムの手記

一体何日ぶりになるのやら―
とりあえず、二階に上がった我々は奇妙な儀式の一式を見つけた。
雄羊の短刀だの、山羊の仮面だの…。
仕方がないので、それを持ったままウロウロしていた所、ちょうどいい所に羊のマークのある扉があった。

それも普通の鍵を使うのではなく、何かを突き刺す形で開閉しているようだった。
言うまでもなく、我等は短刀をその口に刺してみた。

開いた先には左右に分かれ道があり、左右の通路の突き当りには鉄格子がある。ここは開かないようだ。
階段を登ってみると、そこにはバルコニーになっており、吹き抜けから下の様子が見えた。
下には祭壇があるようだ。

下に下りて祭壇を調べてみると、ルーン文字と悪魔の小像が掘り込まれた巨大な石がせり上がっていた。
グロテスクな像は奇怪な儀式の様子を描き、真っ赤な染料がその表面を染めていた。
その残忍な彫り物は恐ろしい物語を伝え、その神聖ならざる意味に冷たい静けさを与えていた。
その彫像は、ひとたびは城に備わっていたケルト風の魅力を全く消し去り、リアルで恐ろしい悪夢によって清らかさは全て失われてしまった。
汚れた石版を探ってみると、祭壇の中に押し込むことが出来るスイッチのような三つの特別なシンボルが見つかった。
そのシンボルはそれぞれ炎の宝珠、山羊の頭、杖だった。
出鱈目に押してみても、全く反応はない。

下手に押したら爆発するのではないか、と内心不安だったがそんな事はなかった。


結局何の手がかりも無いので、何かヒントになりそうなものはないかと再び城中を探索する事にした。

まだいっていなかった場所がある。

そこは不気味な―何か不吉なものが潜んでいるような、地下室のある地下二階だ。


だが、ここで怖じ気づいて何もしないわけにもいかぬ。


二階に下りると、紫色と緑色のドロドロとした粘着性物質が床で蠢いていた。
スライムか―

厄介だ。

こやつらは獲物がきたらベチョリと落ちてきて張り付き、標的を溶かして自分の養分とする、厄介な生き物だ。
鎧なども意味をなさない。
一度取り込まれたり、吸い付かれたりしたら最後、こやつらに消化されてしまう。

さらに、剣で斬りつけようが槍で貫こうが、鈍器で殴りつけようがこやつらの粘膜は傷つかないのだ。
ただ、火(松明などのもの)か魔法攻撃でなければ核を破壊するしか、撃破方法はない。

ドラ●エのあの可愛いスライムとは全然違うのだ。


というわけで、あいかわらず「かくれる→魔法連射」の要領で我々は地下室を探索した。

途中薄気味悪い扉を見つけた。
開けようと試みたが、一寸たりとも動かなかった。

その扉には黒い鉄製のしゃれこうべが表面につけられている。
まるで通路をにらみつけているようで、目のところにはかなり深い穴が開いている。
まるで、昔は一組の宝石が埋め込まれているようだった。
おそらく2つの宝珠を眼窩に入れれば、開くのではないだろうか。

その扉の隣りの部屋で、先程の祭壇の鍵を解くヒントを見つけた。

本だ。
分厚い、羊皮紙がびっしりつまった書だ。
表面には純金製の雄羊のエンブレムがついている。


そう思い、二階にある祭壇まで向かった。

祭壇の上で古代の本を開き、その文字を読み始めた。
「一夜目に雄羊、次なるもまた雄羊、祭壇の上、輝く光に三なるものを求め、四なる夜の杖、五つに再び魔の光、これ祭壇を地に沈め夜に花開かん!」

本の腐敗がひどく、ページをめくると崩れ落ちてしまった。


オズワルド「なるほど…この順番で押せばよいのですな」

とりあえず、何かに備えるため、オズワルドが見守る中余は先程の手順でボタンを押していく事にした―

オズワルドの手記―

あの気味の悪いゾンビがいた塔から陛下と私はすぐに離れ、一旦地下に戻る事にした。
まだ探索しきっていない部屋を片っ端から見ていった。
途中、まるまると太ったネズミに襲われる、穴に落ちて巨大な蛇に襲われるといった危険を何とか乗り越えていった。

この城の障気は、通常の生物をこんなに巨大化させるものだろうか。

しかしそれでも初期の頃よりも戦闘は遙かに楽になった。

それというのも、私と陛下は次々に新しい職業(class)を試して地道にレベルアップに励んだからだ。
どういうわけだか、ここでは職業(class)を変えても大して被害(加齢する事)がないのでガンガン変えた方がいい事に気付いたのだ。
すぐにレベルアップするので、魔術(魔法攻撃だ、言うまでもなく)や神学(回復魔法関連を覚えるのに必要なスキルなのだ)といったスキルを身に付けていった結果、何とか我々も城に巣くう魔物たちと対等に渡り合えるようになったのだ。

気付けば、陛下は「かくれる」の名人になられた。
ほぼ100%でかくれる事に成功なさるのだ。
…私の方はおかげで、魔物の総攻撃を受けるのだが…

しかし!!
陛下のためならこの身なぞ惜しくはない!
むしろ陛下のために死ねるなら、本望ッ!!!


…話がそれてしまった。

ともかく、命中率の異常な悪さを「かくれる→魔法連射」でなんとかカバー出来るようになった我等は探索することが楽になったのだ。

話を戻そう。

その塔の根本に当たる、部屋がまだ手つかずだったので入る事にした。
部屋を覗いてみると、向こう側に朽ちた机が崩れ落ちている。
明らかに真ん中辺りが叩き割られ、
その周りには、かなりボロボロになった書類が散らばっている。

どうもそれは何か法的な文書のようで、
罪状と処刑命令が書き記されていた。
調べてみると机の下の小仕切りの中に、鍵が一つ隠れていた。

恐らく「牢屋の鍵」なのだろう。

さっそく近くにあった、監獄の扉を開く。



「うッ…」


凄まじい死臭が鼻をついた。

牢屋の独房1つ1つに骨が積み重なっている。
山のように積み重なっているのは、忘れ去られた囚人の骨だった。
それも鎖に繋がれたまま死んだらしい。

一番奥の独房の壁には人間の骨の残骸らしきものが、地下牢の壁にもたれかかっていた。
最期の時以来、それに触れたものは居ないようだった。
骨の間を探ってみると、石が緩んで床から突き出しているところが見つかった。
その石を外して下を覗き込むと、
そこには奇妙な文字で書き記された小さな航海日誌のようなものが入っていた。
殆どのページは汚れすぎていて読めなかったが、
文字さえ解読できれば最後の一部だけ読めそうだった。


恐らく、海賊の日誌ではないかと陛下は指摘なさった。
もしや、クィークェグが言っていた海賊船長の宝の隠し場所はここに書いてあるのではないか。

これさえ読めれば…


とりあえず何か手がかりはないものか、と我々は二階に上がった―


皇帝フリードルム2世の手記―


王妃の部屋から出た時、そこに黒いスペードの鍵が落ちているのに気付いた。

そう言えば、城の四隅の他中央に2つの塔が東西に寄り添うようにあるのだが、その西側の塔に厳重なまでに封印されていた扉を思い出した。
そこには、確かスペードの印が押されていたはず―

もしや、これで開けるのでは?

オズワルドも同意らしく、早速我等はその鍵を持って、西側の塔に登ってみた。
最上階にある扉の錠に鍵を差し込むとピッタリだった。

開けるなり、吐き気を催す悪臭がした。
と同時に、人影が見えた。

明らかにそれは生きている人間ではない。
死後―恐らくもう何十年も経った、おぞましい、動く死体だった。

暗黒兵を召喚する指揮官はゾンビを従える者もいるが、そのゾンビ達全部合わせても、目の前にいるこのゾンビのおぞましさには叶うまい。
悪臭と共に、呻き声を上げながら我々に飛び掛かってくる。
動くたびに、その死体から腐った肉片がずるりと落ちる。

意外と動きは軽い。

こやつに殺される訳にはいかない―

たまたま魔物が持っていた、ディスペル・アンデッドの巻物の力を解放してみた。
不死の魔物を一撃で浄化する…はずだが…


無反応


…余の日頃の不信心っぷりが現れてしまった。
何となく落ち込む。

仕方なく、オズワルドがカットラスで何度もそのゾンビに斬りかかる。
何度も強打すると、やがてゾンビはよたよたと倒れる。
動かなくなった―つまり、二度目の死をやっと迎えた訳である。

もはや性別や年齢すら分からないそれを見つめるのは何となく、気がとがめ、持っていたマントを掛ける。

…単に腐りかけたそれを見たくない、という事もあるのだが。

塔の中のベッドやテーブル、椅子などは長い年月を経ていながら殆ど元の状態のままだった。
ベッドの上には、古い毛と腐った肉片が残っていた。
恐らく先ほど倒した死体のものだろう。

そう思うと、何だか気味が悪い。
このゾンビはずっとここで暮らしていたのだろう。
何のためにだろうか…。
一体いつからこやつはこんな所で暮らしていたのだろうか。

だが、そんな事よりも早くここから出る方法を探さなくては。

そう思い、余とオズワルドは塔を降りる事にした。


反対側も探索しようと思ったのだが、そこには頑丈な鉄格子が降りていた。
何かの泣き声の様な声も聞こえたが、恐らく塔に吹き込む風の音だろう。
余の城でもよくある事だ。

臆病者の新米が、それを亡霊の声と勘違いして大騒ぎを起こす事も多い。

何と言っても、余の城―プラウエン城も古い城だ。
そして何度も謀略で多くの血が流されている。
亡霊出現の噂が1つや2つあっても(作られても)不思議ではないのだろう。

004


ひとしきり兄貴と派手に大喧嘩した後、王妃の部屋(王妃でなくとも、恐らく高貴な女性のものであろう)近くからとんでもない物を発見してしまった。

…その、いわゆる

SMの遊具を発見してしまったのだ。

仕舞い方が恐ろしく乱雑であり、また罠が既に解除されている事から先行隊(ラーナ)の仕業である事は予想に難しくない。
…恐らく処分に困ったのだろう。

とりあえず、ブラは防御力が高かった事から姉さんが着けている。
…ロイトガルト姉さんの方が様になると呟いたのを目ざとく(いや、耳ざとく)聞きつけた兄貴とまた大喧嘩になった。

何故仲良くできないんだろう(悶々)

それはともかく、二階の探索を終えた私たちは特に何の収穫も無く(といっても姉さんが珍しいキャベツの料理方法の本と日記を持ってくれた)、再び地下へ戻る事にした。


気付けば、私たちの探索の目的はスヌープチェリ探索となっていた。
…城の外で抜け出す方法を探すという事をすっかり忘れかけていた。

地下に戻って、ある一室を空けるとそこには落書きがされていた。

「オークの馬鹿騒ぎ 金曜 夜8時」

「一人で寂しい夜は…1-900-LADY」

$$ 探しています $$
『迷子のスヌープチェリ』
見つけた方には謝礼
ル・モンテスまでご連絡を

謝礼と聞いて、兄さんの目がキラリと光った様な気がする。
あの様子では、謝礼をうまうまとせしめる魂胆なんだろう。


そんな落書き群でも、「TREBOR SUX」と書かれた壁の辺りに小さな穴が開いている。
多分小鼠の仕業だろう。


「そうだ、これでもやってみるか」

兄さんが取り出したのは、この部屋に来る前に拾った、腐りかけのチーズだ。
この城に来てからというもの、私たちが食べた物は、ならず者たちが携帯していたカブだけ。
カブと城の湧き水で何とかやっているが、栄養失調に陥ってしまうのは目に見えていた。
そんな時、兄さんは城の食料庫(だったであろう部屋)から腐りかけのチーズを見つけたのだ。

その部屋にあった、貯め置かれた幾つもの樽は腐って割れており、包装された何かが中から床に零れ落ちていた。
中身の殆どが固くなっていたが、部屋の湿気のおかげでいくつかがまだ柔らかいままだった。
…とはいえ、かなり古くなっているので、とても食べられるような代物では無かったので、さすがの兄さんも諦めたのだ。

多分姉さんや私が止めなかったら、「もうカブばかりなんざ懲り懲りだ!喰ってやる!」と食べて、腹痛を起こしていたに違いない…。


「ほれほれ、チーズだぞ~」


それは本の軽い気持ちだったのだろう…。

私も姉さんも「そんな事でネズミが出るわけが無いだろう」と笑っていたのだが…


向こう側でなにやら物音がした。
チリチリ言う音は次第に大きくなり、壁の向こう側が揺れているのが感じられるほどになった。

兄さんも危険を感じたのか、チーズを置いたまま後ずさりする。
逃げる準備ではないのは明白だ。
ならず者どもから奪ったカットラスを握りしめている。

私も姉さんも弓に矢をつがえる(何せ、私も姉さんも最初のクラスがレンジャーだったものだから、武器が弓矢に強制的になっているのだ)。


緊張がピークに達そうとした、その瞬間




どごおおおッ!!


突然、凶暴に荒れ狂った巨大なネズミによって、壁は勢いよく吹き飛ばされた。

「何て連中だ―」

今までネズミに何度も喰い殺されかけた(実際はこのプレイヤーが兄さんがネズミにHP0にされる度にリセットしまくっていた)兄さんの額に冷や汗が流れる。

茶色の毛並みのファットラット―猫よりも大きなネズミに率いられているのは、明らかに狂犬病に冒された数匹の赤い毛並みをしたネズミと、歯が異様に鋭い黒灰色のネズミたちだ。

数が多すぎる―

兄さんだけでなく、姉さんも私も生命の危機を感じた―

飛び掛かってくるネズミたちを何とか避けながらも、射殺そうと試みるが、当然の事ながら全部避けられる。
姉さんも同様だ―

兄さんに至っては、一番命中率が高いはずであろうカットラスを振り回すが、全然当たらない。
ネズミたちが俊敏すぎるのだ。

最強騎士の兄妹、ネズミに喰い殺される―
そんな最期、イヤだ…


「兄上!フランソワ!伏せろッ!」

姉さんの声に従った時だった。


突然爆音が響き、烈しい熱風が吹き付けた。
網膜と鼓膜がどうかしてしまったのか、とも思ったが思い出した。

確か姉さんは、何か困った時のために、ル・モンテスから『花火』を買っておいたのだ。

まさか花火がここでこんな形で役に立つとは―




その後は、私たちの優勢となった。
兄さんのカットラスが、花火のダメージから立ち直れていない、ファットラットの胴を真っ二つに切り捨て、後のネズミたちも私と姉さんの矢で一層された。

花火の音と光がネズミたちの動揺を誘えたからこそ、の成果だろう。


「危なかったな…しかし…この奥はどうなっているのだろう」



ネズミたちがいたその場所は、人工的に掘られた穴になっていた。
そこに―宝箱があった。

こういう場合、大抵罠が仕掛けられているのだ。

「テレジア…お前が開けろ」

「断る。自分がこういう事に向いていないのは知っているだろう?」

「じゃあフランソワ、貴様が開けろ」


私もイヤではあったが、(姉さんはともかく)兄さんが失敗するのは目に見えている。

恐らく、これは…「ヴォーパルダガー(開けると鋭い刃が乱舞して襲ってくる)」だろうか。

そう思って開けた途端―

「フランソワ貴様わざとかーーー!」

罠は当たっていた。
だが、外すのに失敗したらしい。

「すまない、兄さん。意外と難しいものだな」

「大体何故貴様に罠が当たらず、俺に当たるんだ」

「仕方ないじゃないか、兄さん、LUCK低いし―」



再び不毛な喧嘩が勃発。

だが、得た物は大きかった。

そこには、ル・モンテスが言っていた「鼻と耳が黒く、全身が白い」スヌープチェリ(のぬいぐるみ)があったのだから。



「これ、どう見てもスヌー●…」

「姉さん、それを言わない…」





自分たちはその後、貧弱すぎるステータスになってしまった兄をかばいながら、何とか切り抜けるのに成功した。

何と言っても、自分たちの体力が20越え出来たのに対し、まだ兄は11しか無い。
ネズミに3回噛まれただけでアウトだ―

ああ、兄上…
百人斬の斧の異名が…


常に兄は物陰に隠れる様になり、自分とフランソワがネズミや襲ってくるつるくさをベシベシと追い払う役割となった。


さて、探索の手も何とか二階に及んだ。
二階の、一番頑丈そうな扉を開けると、そこは王の寝室だった。
いくつもの小部屋に通じる扉があったので、その1つを開ける事になった。

悲しいかな、戦闘では影に隠れてばかりの兄がこの時頼もしかった。
ものの数秒で開けてしまったのだ―

正確にいうなら、こじあけたのだ。

見ているこちらとしては、ただ単にドアノブと錠前を破壊した様にしか見えなかったが、とりあえずドアの開け閉めに支障は来していないのだから成功だ。


「戦闘じゃこそこそ隠れ、鍵開けが得意―まるでこそ泥みたいですね」


言わなければ良いことを!!

(本人にしてみればちょっとした軽い冗談のつもりだろうが)その一言で、兄弟喧嘩が勃発してしまった。
殴り合いになると永遠に決着が付かない。

「この野郎!!今日こそぶっ殺す!」

「すまない、兄さん。ついぽろりと」

…何故こうなんだ、私の兄と弟は…

止めるのもばからしくなり、ほぼ10に満たない少年たちの殴り合いになったのを後目に自分はその部屋に入ってみた。

どうやらそこは書庫であり書斎であった。
この部屋の壁際には、朽ち果てた本棚と崩壊した本の残骸が積み重なっていた。
向かい側の壁際には机が崩れ落ちている。
殆どの本は形を成さないほど崩れていて、中を読むことは出来なかった。
それでもいくつかの本はタイトルを読むことが出来た。

「世界の歴史」
「数学全書」
「2週間で7キロ痩せてその体型を保つ方法」
「呪文について」

最後の二冊は何かの役に立ちそうだった。
しかし残念なことに両方ともかなり腐敗が進んでいるようだ。
まだ読める場所から手に入った情報と言えば、キャベツの面白い調理法だけだった。

生還して姉上に会えたら教えようと思い、とりあえずメモをしておいた。(注:メモは別に取ってある様子)

更に面白い物はないかと机の残骸を探ってみると、机から壁の中に繋がっているワイヤーが見つかった。
罠が仕掛けられている可能性を考慮し、体を屈めてワイヤーを引いた。
すると、石壁の一部が抜けて戸棚が見つかり、宝石箱が隠されていた。
宝石箱を開けてみると、中には金色の鍵が一つと小さな本が入っていた。
本の状態は悪くなかった。

それはノートか日記のようだったが、判読できない不思議な暗号で書かれていた。
恐らく、この国のごく一部の上流階級が使う文字なのだろう。


周囲を捜索したあと、これ以上この部屋で探索の必要はないと考え、王の私室へと戻った。


戻った所で、まだ兄と弟は殴り合っていた。

喧嘩も出来なくなったらその時兄も弟も絶望に浸りきってしまった状態であるという事になる。

まだお互い罵り合い、殴り合っている内はいいのかも知れない。

そう思い、しかしこのまま続行させても不毛なだけなので、
自分はとりあえず止めに入る事にした。


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