004
ひとしきり兄貴と派手に大喧嘩した後、王妃の部屋(王妃でなくとも、恐らく高貴な女性のものであろう)近くからとんでもない物を発見してしまった。
…その、いわゆる
SMの遊具を発見してしまったのだ。
仕舞い方が恐ろしく乱雑であり、また罠が既に解除されている事から先行隊(ラーナ)の仕業である事は予想に難しくない。
…恐らく処分に困ったのだろう。
とりあえず、ブラは防御力が高かった事から姉さんが着けている。
…ロイトガルト姉さんの方が様になると呟いたのを目ざとく(いや、耳ざとく)聞きつけた兄貴とまた大喧嘩になった。
何故仲良くできないんだろう(悶々)
それはともかく、二階の探索を終えた私たちは特に何の収穫も無く(といっても姉さんが珍しいキャベツの料理方法の本と日記を持ってくれた)、再び地下へ戻る事にした。
気付けば、私たちの探索の目的はスヌープチェリ探索となっていた。
…城の外で抜け出す方法を探すという事をすっかり忘れかけていた。
地下に戻って、ある一室を空けるとそこには落書きがされていた。
「オークの馬鹿騒ぎ 金曜 夜8時」
「一人で寂しい夜は…1-900-LADY」
$$ 探しています $$
『迷子のスヌープチェリ』
見つけた方には謝礼
ル・モンテスまでご連絡を
謝礼と聞いて、兄さんの目がキラリと光った様な気がする。
あの様子では、謝礼をうまうまとせしめる魂胆なんだろう。
そんな落書き群でも、「TREBOR SUX」と書かれた壁の辺りに小さな穴が開いている。
多分小鼠の仕業だろう。
「そうだ、これでもやってみるか」
兄さんが取り出したのは、この部屋に来る前に拾った、腐りかけのチーズだ。
この城に来てからというもの、私たちが食べた物は、ならず者たちが携帯していたカブだけ。
カブと城の湧き水で何とかやっているが、栄養失調に陥ってしまうのは目に見えていた。
そんな時、兄さんは城の食料庫(だったであろう部屋)から腐りかけのチーズを見つけたのだ。
その部屋にあった、貯め置かれた幾つもの樽は腐って割れており、包装された何かが中から床に零れ落ちていた。
中身の殆どが固くなっていたが、部屋の湿気のおかげでいくつかがまだ柔らかいままだった。
…とはいえ、
かなり古くなっているので、とても食べられるような代物では無かったので、さすがの兄さんも諦めたのだ。
多分姉さんや私が止めなかったら、「もうカブばかりなんざ懲り懲りだ!喰ってやる!」と食べて、腹痛を起こしていたに違いない…。
「ほれほれ、チーズだぞ~」
それは本の軽い気持ちだったのだろう…。
私も姉さんも「そんな事でネズミが出るわけが無いだろう」と笑っていたのだが…
向こう側でなにやら物音がした。
チリチリ言う音は次第に大きくなり、壁の向こう側が揺れているのが感じられるほどになった。
兄さんも危険を感じたのか、チーズを置いたまま後ずさりする。
逃げる準備ではないのは明白だ。
ならず者どもから奪ったカットラスを握りしめている。
私も姉さんも弓に矢をつがえる(何せ、私も姉さんも最初のクラスがレンジャーだったものだから、武器が弓矢に強制的になっているのだ)。
緊張がピークに達そうとした、その瞬間
どごおおおッ!!突然、凶暴に荒れ狂った巨大なネズミによって、壁は勢いよく吹き飛ばされた。
「何て連中だ―」
今までネズミに何度も喰い殺されかけた(実際はこのプレイヤーが兄さんがネズミにHP0にされる度にリセットしまくっていた)兄さんの額に冷や汗が流れる。
茶色の毛並みのファットラット―猫よりも大きなネズミに率いられているのは、明らかに狂犬病に冒された数匹の赤い毛並みをしたネズミと、歯が異様に鋭い黒灰色のネズミたちだ。
数が多すぎる―
兄さんだけでなく、姉さんも私も生命の危機を感じた―
飛び掛かってくるネズミたちを何とか避けながらも、射殺そうと試みるが、当然の事ながら全部避けられる。
姉さんも同様だ―
兄さんに至っては、一番命中率が高いはずであろうカットラスを振り回すが、全然当たらない。
ネズミたちが俊敏すぎるのだ。
最強騎士の兄妹、ネズミに喰い殺される―
そんな最期、イヤだ…
「兄上!フランソワ!伏せろッ!」
姉さんの声に従った時だった。
突然爆音が響き、烈しい熱風が吹き付けた。
網膜と鼓膜がどうかしてしまったのか、とも思ったが思い出した。
確か姉さんは、何か困った時のために、ル・モンテスから『花火』を買っておいたのだ。
まさか花火がここでこんな形で役に立つとは―
その後は、私たちの優勢となった。
兄さんのカットラスが、花火のダメージから立ち直れていない、ファットラットの胴を真っ二つに切り捨て、後のネズミたちも私と姉さんの矢で一層された。
花火の音と光がネズミたちの動揺を誘えたからこそ、の成果だろう。
「危なかったな…しかし…この奥はどうなっているのだろう」
ネズミたちがいたその場所は、人工的に掘られた穴になっていた。
そこに―宝箱があった。
こういう場合、大抵罠が仕掛けられているのだ。
「テレジア…お前が開けろ」
「断る。自分がこういう事に向いていないのは知っているだろう?」
「じゃあフランソワ、貴様が開けろ」
私もイヤではあったが、(姉さんはともかく)兄さんが失敗するのは目に見えている。
恐らく、これは…「ヴォーパルダガー(開けると鋭い刃が乱舞して襲ってくる)」だろうか。
そう思って開けた途端―
「フランソワ貴様わざとかーーー!」
罠は当たっていた。
だが、外すのに失敗したらしい。
「すまない、兄さん。意外と難しいものだな」
「大体何故貴様に罠が当たらず、俺に当たるんだ」
「仕方ないじゃないか、兄さん、LUCK低いし―」
再び不毛な喧嘩が勃発。
だが、得た物は大きかった。
そこには、ル・モンテスが言っていた「鼻と耳が黒く、全身が白い」スヌープチェリ(のぬいぐるみ)があったのだから。
「これ、どう見てもスヌー●…」
「姉さん、それを言わない…」
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