オズワルドの手記
ひとまず陛下と私は一旦休憩した後、城内の探索へと戻った。
北へまっすぐ進んだところ、突き当たりに当たった。
そこには鉄格子があり、「勤務時間中 門の開放は厳禁」という看板まで着いていた。
この場合、どこか手近に扉を開けるモノがあるのだが―
と、ふと陛下が近くの出っ張ったレンガの1つを押された。
その途端埃と共に、鉄格子が開いた。
もしここで鉄格子が降りては大変ということで、陛下は廊下に残ってスイッチを見張られる事となり、私が部屋の中を探る事にした。
部屋の中央は古い骨の破片が辺りに散らばっており、地面には真っ赤なしみが付いている。
その光景は戦場で屍の山を見慣れた私であっても、どこか気味の悪さを感じる。
不自然なほどここだけ骨の破片が多い所為だろうか。
そんななか、私はふとある一つの頭蓋骨が気になった。
調べてみると、砕かれた頭蓋骨の喉の辺りから奇妙な鍵が見つかった。
今際の際に、それを飲み込んだのかもしれない。
鍵の頭には羊の彫刻が施されている。
羊―
古代から“生贄”もしくは“魂”の象徴の動物とされている。
きっとこの鍵は重要なものではないか。
これを陛下に預かっていただくこととした。
薄気味悪い部屋を後にして、南東の塔へと向かった。
南東付近についた時だった。
それほど遠くない辺りから、衣擦れなのか
何かが羽ばたくような音が聞こえてきた。
多分、この城の塔に吹き込む風の仕業だろう、と思ったがそれにしては強い風ではないのだろうか―
そう思い、私たちは塔を駆け上ってみる事にした。
目の前の階段を曲がった向こう側から、何かがぶつかったような音が聞こえる。
やはり何か近くに居る。
さらに我等は、螺旋階段を足早に登った。
前方の階段を駆け上がるガタガタという足音が聞こえる。
階段を登り、塔の最上階まで一気に駆け上がった。
塔の床にはパンの屑が散らばっていた。
そして、穏やかな風に吹き飛ばされていった。
と、突然、右のほうでドアがバタンと閉まった。
ドアの向こうから、なにやらとても奇妙な物音が聞こえてきた。
何かが強く圧迫されながら、深く呼吸するような音だった。
ドアの向こう側から奇妙な声が聞こえた。
そのイントネーションは、グランクール(読者の世界で言うならばフランスと言うらしいが)風の独特なものだった。
「どっかへ行っちまえ!」
その高圧的な物言いに黙っている我等ではない。
「貴様、この城に住んでいる者なのか!?」
陛下の問いに無礼にもその男は答える事なく怒鳴り続けている。
「わしは、『どっかへ行っちまえ』って言ってるんだ。
お前さんが誰であろうと、わしは出て行かん!
ここから動かすことは出来んぞ!」
「何…」
どうやら相手も相当頑固らしい。
こんな石頭を相手にする位ならば、さっさと立ち去るべき、と陛下は判断なさった。
塔のバルコニーの様な部分に出てみる。
東のほうには、寒くて陰鬱で、邪悪なものたちの住処との間を隔てる沼が広がっている。
やはり、悪魔や魔女などの伝説は、ただの噂話というわけではないのだろうな、と陛下は仰有られた。
階段を降りる際、いきなりネズミの大群に襲われた。
薄汚く、一般のネズミよりも巨大で炯々と目を赤く光らせるネズミたちを見たら、どんな勇敢な男でも総毛立つだろう…。
不気味な泣き声を発しながら、奴らは私の足や陛下に飛び掛かってきた。
何とか全滅させた時、すっかり私たちは息が上がっていた。
陛下曰く「ここに居る者はどれも障気の影響を受けて、一般の世界にいるそれとは比べ者にならない位凶悪化している」
そして、ネズミ一匹倒すのに我等が苦労するのはそのせいであって、決して我等が弱くなったわけではない、とも。
確かにそうだ。
あんな巨大な体をしたネズミはラーナはおろか、グランクールにもエスタニアにもおるまい。
もしかしたら、我等もここに長居をするべきではないのだろう。
障気を吸いすぎて正気を失ってしまったら、どうなってしまうのだろう。
そんな不安が頭を過ぎったが、今はネズミとの戦いで疲労した身体に鋭気を養う事しか出来ぬだろう。
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