
フェルディナントの日記より
001
ラーナが秘密裏に「コズミック・フォージ」と呼ばれる秘宝を手に入れるために乗り出したという。
それを聞いた俺は直ぐさま妹(テレジア)を連れて、アラム城へと乗り込んだ。
そこまでは良かった。
だが、この城に降り掛かった“災い”は俺たちの上にも降り掛かった。
それは、入り口であり、出口である城門がいきなり閉まったきり二度と動かなくなった事ではない。
「…何故貴様がここにいる」
城には先客がいた。
あの忌々しい顔―何を見間違えても、こいつの顔だけは忘れない。
否、忘れようとしていてもこいつはいつも肝心な時に現れて俺の邪魔をする。
縁を切ったはずなのに、逆にしつこく月回れるとは皮肉なものだ。
「ははは、兄さんの考える事ぐらい分かるさ」
女共がいたら、さぞかし「きゃー♪」と奇声を上げたであろう笑みを浮かべる。
「一体何の目的でここにいる…」
剣呑な俺の眼光を見ても、こいつは一向に怯まない。
馴れてない奴が見たら、失禁するほどの鬼気迫る表情を浮かべても、逆に弟はそれを楽しんでいるかのようだ。
それがますます俺の神経に障る。
「兄さんと同じさ。敵国に秘宝を渡さない様に先回りしたんだ」
「だが、閉じこめられては意味が無いな。悪いが、お前はここで死んで俺たちはここから生きて帰る」
「どうやって? 唯一の出口は塞がれ、魔の障気漂う迷路が前にある以上、ここでお互い殺し合いを演じても意味が無い―そうだろう、姉さん」
ここまで俺たちの動向を見守っていたテレジアは、突然意見を求められても狼狽することはなかった(さすが俺の妹だけの事はある)
しかし…
こいつは昔からそうだ。
何かあると、すぐにテレジアの意見を何とか自分のイイ方に持っていこうとする。
「…残念だが、兄上。フランソワの言うとおりだ」
何!
「得体の知れないこの迷宮を全員で生きて出られるのが優先すべきではないか?それに、ここでフランソワと一騎討ちして下手に体力を削ったら、この城から脱出する際に負担になる」
…。
腸が煮えくりかえりそうだが、テレジアの言うとおりだ…。
得体の知れない何かがここにはある。
さすがの俺も、ちょっと不安はある。
それに先行したラーナの動向も気になる。
呉越同舟―
そんな言葉が俺の胸に去来した。
何よりも腹立たしいのは―
どういうわけか、こいつが物凄く嬉しそうな―楽しそうな顔をしていることだ。
何がそんなに嬉しいんだ。
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