―皇帝フリードルム2世の手記―
玄関ホールを抜けると、巨大な広間に出た。
陰鬱さと静寂がこの部屋の主だった。
我等が入るまでは―
だが、どうやらここには我々以外の人間がいる事も確からしい事に気付いた。
広間の巨大なシャンデリアや蝋燭台には火が点っている。
恐らく、今我等が置かれているのと同じ境遇に陥ってる者がいるのも確かなのだろう。
ふと何と無しに近くの小棚を見てみると、宝箱があった。
曰くありげなそれの埃を取ると、金属面に「これを最初に開けよ」という文字が彫り込まれている。
最初。ということは、少なくとももう1つあるのだろう。
そのもう一つは、ちょうどその小棚の反対側にある棚にあった。
それには「これを二番目に開けよ」とあった。
どういうわけだか、逆の手順で開く事にした。
つまり、最初に「二番目」の箱を開けたのだ。
城にある物―それも曰くありげな城にあるものなのだから、罠に十分注意したが、幸いな事に罠は仕掛けられていなかった。
中には杖といくつかの金貨、そして巻物があった。
それには「けっして あきらめぬこと」と記されている。
これを置いたのはいかなる人物で、どういう意図があってこうしたのかは分からぬ。
だが、閉じこめられ、ある種の絶望に近い境遇に置かれている身としてはわずかな救いのように思えた。
もう一方も空けてみると、「ひとたびの治療を二度、回復を三度、汝に一つの命、与えること七度」という巻物といくつかの治療薬があった。
見てみれば、傷薬の他、毒消しや深い症状を治す軟膏みたいな物まで揃っていた。そして、「いのちのまよけ」と言われている飾りまで見つけた。
杖は余が装備する事とした。
魔力が込められているこの杖は、いざとなったら役に立つかも知れない。
そのいざ、という時が早速やってきた。
いきなり背後から、不気味な、何かがうねる音が聞こえた。
振り向くと、動き回る蔓草が数本こちらに向かっていた。
明らかに、それは意思を持っていた。
侵入者たる我等を迎え撃つと言う、きわめて攻撃的な―
「たかが草だ。こんなもの…」
踏みつぶす程度、と思っていたのだが意外にもしぶとかった。
否、信じられないかも知れないが一瞬、余は「死」を覚悟した。
蔓草は鞭のようにしなり―その癖、下手な剣よりも鋭い葉でこちらの足や胴にからみつき、または貫こうとするのだ。
その一撃一撃自体は非常に弱いが、いかんせん数が多い―
みれば、9体ほどいる―
しかもどういうわけか、余の攻撃はおろかオズワルドの渾身の一撃ですらまったく効果がなかった。
「陛下、ここは私が相手をします!どうか御隠れ下さい!」
そう言われ、余は近くの物陰に身を潜めた。
どんなに凶悪な魔物出会っても、所詮は植物―
急に消えた余を見つけだせるわけがない。
ちょうどオズワルドも近くの物陰に身を潜めた。
ここから、やっと我等がまともに攻撃出来る。
一体いつからこんな能力が開花されたのか、余もオズワルドも強酸のブレスを吐けるようになっていた。
それで一網打尽だった。
だが…
気付いたことがある。
ブレスを吐いた後、ひどく疲労感と倦怠感を覚える。
下手に今動き回ったら自殺行為だ。
そういうわけで、二人して近くの―安全そうな小部屋を何とか見つけだして閂をし、そのまま丸太ん棒の様に眠りこけた。
草刈りごときでこんな疲労と苦戦をするなんて…
ある意味では落ち込んだが…
ともかく、今は身体を休めるのが先決だ―
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