皇帝フリードルム2世の手記―
王妃の部屋から出た時、そこに黒いスペードの鍵が落ちているのに気付いた。
そう言えば、城の四隅の他中央に2つの塔が東西に寄り添うようにあるのだが、その西側の塔に厳重なまでに封印されていた扉を思い出した。
そこには、確かスペードの印が押されていたはず―
もしや、これで開けるのでは?
オズワルドも同意らしく、早速我等はその鍵を持って、西側の塔に登ってみた。
最上階にある扉の錠に鍵を差し込むとピッタリだった。
開けるなり、吐き気を催す悪臭がした。
と同時に、人影が見えた。
明らかにそれは生きている人間ではない。
死後―恐らくもう何十年も経った、おぞましい、動く死体だった。
暗黒兵を召喚する指揮官はゾンビを従える者もいるが、そのゾンビ達全部合わせても、目の前にいるこのゾンビのおぞましさには叶うまい。
悪臭と共に、呻き声を上げながら我々に飛び掛かってくる。
動くたびに、その死体から腐った肉片がずるりと落ちる。
意外と動きは軽い。
こやつに殺される訳にはいかない―
たまたま魔物が持っていた、ディスペル・アンデッドの巻物の力を解放してみた。
不死の魔物を一撃で浄化する…はずだが…
無反応…余の日頃の不信心っぷりが現れてしまった。
何となく落ち込む。
仕方なく、オズワルドがカットラスで何度もそのゾンビに斬りかかる。
何度も強打すると、やがてゾンビはよたよたと倒れる。
動かなくなった―つまり、二度目の死をやっと迎えた訳である。
もはや性別や年齢すら分からないそれを見つめるのは何となく、気がとがめ、持っていたマントを掛ける。
…単に腐りかけたそれを見たくない、という事もあるのだが。
塔の中のベッドやテーブル、椅子などは長い年月を経ていながら殆ど元の状態のままだった。
ベッドの上には、古い毛と腐った肉片が残っていた。
恐らく先ほど倒した死体のものだろう。
そう思うと、何だか気味が悪い。
このゾンビはずっとここで暮らしていたのだろう。
何のためにだろうか…。
一体いつからこやつはこんな所で暮らしていたのだろうか。
だが、そんな事よりも早くここから出る方法を探さなくては。
そう思い、余とオズワルドは塔を降りる事にした。
反対側も探索しようと思ったのだが、そこには頑丈な鉄格子が降りていた。
何かの泣き声の様な声も聞こえたが、恐らく塔に吹き込む風の音だろう。
余の城でもよくある事だ。
臆病者の新米が、それを亡霊の声と勘違いして大騒ぎを起こす事も多い。
何と言っても、余の城―プラウエン城も古い城だ。
そして何度も謀略で多くの血が流されている。
亡霊出現の噂が1つや2つあっても(作られても)不思議ではないのだろう。
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