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わたしは自分がなにを感じ―なにを考え-ているかを書いてみたいと思う(キケロ)
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死者の殿堂に、何故だか余は行きたくなった。
本来なら、ここから即行立ち去るべきなのだが、真実を探求したい―否、知らなくてはこの城一帯から出られないのだ。

凍り付くような恐怖を抱いているのに、何故そういう事が出来るのか分からぬが、余もオズワルドも地下へ続く螺旋階段を降りていった。

響くのは我々の足音だけ―
それなのに、何か聞こえたような気がする…


殿堂は、大きな回廊になっていた。
そして、一定間隔に玄室が左右に配備されている。
否、玄室というよりは柩の間である。

かつて、この城の重鎮たちの墓なのであろうか―


しばらく歩みを進めた時だった。

突然、天井から巨大な岩が落ちてきた!

何とか避けたものの、余もオズワルドも頭部に傷を負った。


「けがらわしきものに死を!」


突然、石を敷き詰めている床にひびが入り、大きな穴から腐りきった人間の死体が現れた。
奴らの動きは、これまで相手にしてきた動く死体たちよりも遙かに素早い。
まるで踊っているように動くのだが、その度に腐肉がずるりずるりと落ちているのを目の当たりにしては、夢に出てきそうだ。


「ディスペルアンデッド!」

何とか、退散させたものの、視覚的・精神的ダメージが大きい…。


しばらく進むと、今度はぶきみな光が余とオズワルドに降り注いだ…


「おろかな侵入者め!」

何やつ…
声を上げようとしたが、あの光のせいか、声が出なくなってしまった。
沈黙させられてしまったのだ。
これでは、「ディスペルアンデッド」が詠唱できぬ。
奴ら、これを狙っておったのか…。


目の前に現れたのは、邪悪な亡霊ゴーストリイ・シー・ハグだ―
生前から、人を誘い込んで喰らっていた連中だ。
奸智でも知られる奴らだが、オズワルドの敵ではなかったようだ。

あらかじめ、エンチャンテッドブレード(武器に魔力を付与する魔法だ。これならば、実体を持たぬ霊や妖しどもでも斬り捨てられる)を互いの武器に施していたのだ。

さらに進むと…悪魔の風が通路を吹き抜けた!



『たあああちいいいいさああああれええええ』


身の毛がよだつとはこういう事なのだろうか。

周囲は墓場と死者のみ。
そして、怨霊の類が跋扈する暗闇の宮殿。

余は…我々は

生きて戻れるのだろうか…

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オズワルドの手記―

亡者の島を出た時、カロンに遺灰のいくつかを手渡した。
カロン自身から貰えた報酬の他、遺灰の前の持ち主たちの念(どうやら死者の川を渡れるという感謝らしい)も報酬として受け取った。

だが、三つ目の遺灰の入った壷を渡そうとしたら…

カロンは受け取りを拒否したのだ。


「すまないが、私はこれには、さわれない!
これはあなたがたが戻したほうがよい…
ここにかぎがある。
死者の島に渡って、この遺灰をあるべきところに戻してくれ、
いいね?」


何故カロンほどの者が拒否するのだろうか。
その時まで私たちは理解出来なかった。

死者の島は群島の中でも、ひときわ大きい島だった。
中央には、厳重な鉄格子が降ろされている、一種の堂があった。
現世に死者の魂や亡者たちが溢れ出る事を防ぐかのように巨大で、どこか冷ややかさを感じる鉄門だった。
カロンから渡されたカギで開けると、軋んだ音を立てながら門は開いた。

その堂は、納骨堂だった。
内部は八角形になっており、やや無造作に死体―否、骸が置かれていた。

この奇怪な納骨堂の中は、何やらぶきみな気配を感じさせた。
それはさし迫る危機の最初のきざしかもしれなかったが、ただ単にあまりにも数多くの死人に囲まれているというだけのことかもしれなかった…


「オズワルドよ…この骸、生きておるぞ」

ひそめられたであろう陛下の声が堂内に響く。
しかし、陛下のご指摘通り、ここの骸の内何体かは生きている―否、明らかにこちらに対する敵意に満ちている。

「気付かぬ振りをし、こやつらが襲ってきたら…」

「は…」

地下へ降りる階段へ足をむけた途端、襲撃は始まった。

骸の剣士たちが一斉に斬りかかってきたのだ。


「ディスペル・アンデッド!」

ほぼ瞬間的に唱えられた陛下の浄化魔法で、我々を取り囲んでいた骸の剣士たちが崩壊していく。
だが、何体か―かつては手練れであった剣士たちであったのだろう―は残っていた。
それだけ、執念が残っているのだろう。

数回斬り結び、強打して粉砕し、何とか襲撃を切り抜けた。


地下へ続く階段の先は暗く、果てのない深さを感じさせたが、実際降りてみるとそこまで深い、というわけではなかった。
降りた先には、小さな祭壇があった。

そこには次のような墓標があった。

「失われた戦士」
―想い出をこめて。
彼が家路につけますように―


小さな遺灰の入ったつぼを、祭壇に置いた。

祭壇の上には黒い骨つぼが置かれ、
いくつかの遺灰の山が安置されていた。
その遺灰は心地良い香りをただよわせ、
暗く陰うつな墓地の雰囲気を
やわらげていた。


遺灰の入った壷を置いた時、背後の扉が開く音に気付いた。
今まで気付かなかったが、その扉の上の文字に思わず私はゾッとした。



―死者の殿堂―


ゾッとしたのは、あの奥に何かいる気配を感じたからなのか、地下独特の寒さに身体が冷えてしまったからなのか―
そのまま俺たちは(面倒なので)さっさとマイちゃんの所に行って、キセルとやらを取っていく事にした。



「引換番号は38-23-36」

堂々と答えると、マイ・ライはにこやかに笑った。

「はいはい、わかりました。調べて参りますので、しばらくお待ち下さい…」

こんな魔物だらけの所で待たされるのは居心地悪いが、無事に水キセルが渡されるのを今かと待っていた時だった。


「イヤーーーァ!」



突然、絹を裂く悲鳴が聞こえた。
無論、テレジアではない。
マイ・ライのものだ。

「助けて!助けてーーー!」

突然、その南洋美女は、さけびながら建物から走り出て、
そのまま川の中に飛びこみ、
あっと言う間におよぎ去ってしまった…


後に残されたのは、呆然とした俺たちだった。


「…こんな魔物だらけの川によく飛び込んだな…」

俺がぽつりと呟いた。

「そんな事を気にするよりも、兄さん…なんかもの音がしないか?」


フランソワの指摘通り、奥で物音がする。


「いつまでも戻ってこないしな…少し様子を見ようか」

テレジアが言うので、俺たちは建物の中に入った…

と、中は滅茶苦茶になっていた…
そして、身の丈60㎝ほどのこびとが走り回っているのが目に入った…

ボークが大暴れしながらこっちに来るぞー!



それはスプリガンの一種だが、巨人というよりはまさにこびとだった。


「目が完全にイッてやがるな…」

「あのハンマーに気を付けるべきだな」

ボークは遮二無二ハンマーを振り回して飛びかかってきた。
マイ・ライの言葉が頭を過ぎった


―退屈なので何かしたい―


暴れ回りたいという事だったのか。
だが、これは少々度が過ぎる。

「出来るだけ、殺生は控えたかったが―仕方ない」

フランソワ・テレジア共にすっと影に隠れる。
これが今の俺達の攻撃の合図だ。

それにしても、象を投げ飛ばすは誇張かと思っていたが、本当に投げ飛ばす事ぐらい容易なのではないだろうか。
あのハンマーの重さは半端ないはず。
それを棒きれか何かのように振り回しているのだ。

下手に接近してしまっては、頭をスイカみたいに吹っ飛ばされかねないな…!


その時だった。

「兄さんも隠れるんだ!」

何故かフランソワの言葉に従った。
と同時に、そこには身の丈3メートルはあろうかという悪魔―それも地獄からの死者と言わんばかりのものが現れた。


「コンジュレイションを使ったのか…」


言うまでもなく、召喚魔法だ。
イリュージョンで呼び出される影や幽霊、クリエイト・ライフのような動物生命体を創り出すよりもはるかに強力なものだ。

グレーター・デーモンは、俺たちの予想よりも遙かに働いてくれた。
凄まじい悪魔の腕の一振りは、さすがにボークでも避けきれないのか、吹っ飛ばされたまま壁に激突し、勝負はついた。


…しかし、ボークが暴れた以上にグレーター・デーモンが暴れてしまったせいか、完全に倉庫は滅茶苦茶になってしまった。


だからこそ、瓦礫の中から「水キセル」を見つけたのは奇跡としかいいようがない。
しかも無傷だ。




さっそく芋虫に渡してやった。

「ウムムムム…(スパスパ)
アァーーーッウ!(スパスパ)
いや、たまらん…(スパスパ)
イーーーャ!(スパスパ *ゼイゼイ*)
ゴホン!ゴホン!
(ゴフ! エヘン! ゴホン!)
もう少しかるいヤツの方がいいかもしれん…
*ハーハーハー*
これはホントにかるいヤツだ…」

夢中で吸ったせいなのか、久しく忘れていたせいなのか、いも虫はむせて桃色の煙を吐き出していた。
なんて渋いタバコなんだ…。

「おお、そうだ。『ちっこくなる』ヤツをやってみんかね?」

「ちっこくなる?」
何故か興味が湧いた俺たちは、試すと答えた。

「なら、いつかこいつをためしてみたまえ!」

そういうと、芋虫はポケットから何かを渡した。
…って、赤いキノコ…
見るからに、やばそうな色をしている…。

「おお、そうじゃ。
ところで、もしお香をお好みなら…*クンクン*
この煙のかおりは最高じゃよ。好きなところで使いたまえ・・・
さて、それでは失礼して、わしは(ハーハー)
お気に入りの木陰までいって、わしのパイプともう一度親しく、つきあってくるとしよう(ハーハー、ウウ、ゴホン)」


まだむせてるぞ、おっさん…


しかし、このお香はなかなかいい匂いがする。
どこかで使ってみるか。
そう思い、俺達は結局またあの地下水脈へ戻る事にした。
せっかく帰られるとおもったんだがな…
小さな、何かの生き物が飛び跳ねた辺りの足跡がある近目の前には、見たこともないような奇妙な光景が見えた。
たくさんのうでとあしのある奇妙なやつが、沼のそばに生えているキノコのてっぺんにすわっていたのだ。
男は神経質でこうふんしやすそうな感じだった。

香りのきついキノコの上にすわっている巨大な虫のような姿の男は、ペンを使って何やらふくざつな数式らしきものをいそがしけに紙に書き付けていた。
と、突然こちらの存在に気づいた男は、おどろいて小さく鼻をならし紙を取り落とした。

「うむ…なんということだ!」

彼の小さな瞳は鼻の上で大きく見開かれ、しばらくこちらをじっと見つめた後、ついに口を開いた。

「タバコはやらんのだろう?え、どうかね?」

「いや…私はタバコを知らないんだ…」

「そうか…わしはようするにいも虫じゃ・・・この城の沼地に住んでおる。おぉ、タバコが吸いたい!」

「城の沼地?」

私が聞くと、いも虫は答えてくれた。

「直接、城には行けんがの。沼は危険が一杯!まさに我々はその中に立っておる!」

「そのキノコは何?」

「素晴らしい発明じゃと思わんかね?!こいつを食べる者もあるし、ただすわる者もおる。まさにわしは今すわっとるよ」

「小さな足あとを見つけたが?」

「デーティーデー、うさぎのあとを追いかけろ…だが、捜すには霧がこすぎる!」

「うさぎだって!?」

「おくれたので走った!もういない! すでに去った!まあ、気にすることではない」

「コズミック・フォージのことは?」

「それはなんのことかね?それについてはなにもしらん。聞いたこともない。」

やはり…
コズミック・フォージの事はそう易々と知れるわけが無いとは思っていた。
…で、運命の手と言われるペンとは到底かけ離れているペンについて話題を振ってみる事にした。


「そのペンは?」

「これはごくふつうのペンじゃ。今それで仕事をしておるよ・・・このペンはわしに必要じゃ。」

「仕事?」

「わしはキセルがどこにあるか計算しておるのじゃ!」

「キセルとは?」

「昨年の夏、島の方にバカンスを取りに行ったときに、持って行ったのまではおぼえておるのじゃ」

「そこでどこかに預けたおぼえもあるのじゃが、いったいそれがどこだったか…てがかりになるものはたったひとつ、
わしのポケットに入っていた小さな紙切れだけじゃ。
それにはこう書いてあったが…

「お荷物をお引き取りになりたいときは、
担当の者にご連絡下さい」


ふと、私は思いだした。
あの陰鬱な川の中に数多くある島で、「預かりの島」という所―

そこには南洋風の美女が受付として、物を預かってくれる島だった。

「預かりの島へようこそ!たいへんもうしわけございませんが、ただいま倉庫は、いっぱいでございます…しばらくしてからもう一度おこしください!」

そう美女は申し訳なさそうに言ってきた。
せっかく預かって貰おうと思ったのに…残念だ。
仕方なく、私は彼女と少しばかり会話を交わした。

「こんにちわ」

「ウーラ、ウーラ!
わたくし、マイ・ライともうします!
ここは預かりの島、荷物を預かる所です」

「預かりの島?」

「わたくしが倉庫の担当をしております。ただいま倉庫は一杯でございます。お荷物はお預かりできません」

「倉庫が一杯?」

「わたくしたちはお荷物を倉庫でお預かりいたしておりますが、ただいま倉庫が一杯でお預かりできません」

「奥のほうの物音は?」

「守衛のボークです。たいくつしているので、なにかしたいと
言っています」

「ボーク?」

「ボークは倉庫の守衛の者です。身長は40㎝ほどですが、象を投げることもできます」

なるほど。セキュリティーは万全だな。

「コズミック・フォージ?」

「それはなんのことでしょうか?存じませんが…」



結局、彼女に「魔法使いの指輪」を手渡すだけで終わってしまったが、あの島に立ち寄っていたのは良かった。
恐らく、この芋虫の「キセル」はそこにあるに違いない。

「まったく…お話しするのもおはずかしいが、わしは大事な水ギセルを
どこかに置いてきて、それがどこだかおぼえておらんのじゃよ…
見てのとおり、わしは今、問題の水ギセルの最後に確認されている物理的座標と、わし自身の正確な時間的、空間的位置に関して再計算をしておる。
そうすることによって、この宇宙のどこかにキセルがあるのかを突き止めようとしておるのじゃよ」

「もしや預かりの島では?」

私がそう言った途端、いも虫の顔がいきなり目の前まで迫ってきた。
まったくもって、昂奮しやすい男だ…

「預かりの島?そうだ! 預かりの島に倉庫があった!
そこに預けたにちがいない!倉庫に行って取ってきてくれ!」

「引換番号が必要ですね」

「引換番号?引換番号!!?おぉ、なんということだ!
あの数字はそういう意味を持っておったのか!
どおりで、我が水星が水瓶座の上で金星とぶつかると予言されるわけじゃ!
しかし、それがなんであったのかを教えてもらっても、わしはその数字をまったくおぼえておらんのじゃ…
どうもこれは…
『ビンの神託所』の出番のようじゃな!」


「『ビンの神託所』とは?」


「ビンの神託所は実に簡単なしくみになっとる。問いたいことを紙に書いて、ビンに詰め、そのビンを『ビンの神託所』と書いてあるところから川に流せばよいのじゃ。後はそのビンを捜し出せば、まるで魔法のように、答えが中に記されているというわけじゃ。素晴らしいじゃないか、エ?どうしてもっと早く思いつかなかったのか!」

いも虫は何かを紙に書き付けて、それをこちらに渡した

「このメモをビンの中に入れ、栓をして、ビンの神託所にまかせてくるのじゃ。答えはもうすぐわかるぞ!あぁ、タバコが吸いたいのぉ!」

「ビンはないの?」

「すまないが、ビンは持っていない。ビンの神託所のサインのところで、ビンを流したまえ」



…だが、あの城で空のワイン瓶を持っていたのは幸いした。
丁度ワインのビンのコルクを持っていたのだ。
あの芋虫に何の義理も無いが、一応頼まれた事だ。
やり遂げてやろうと思う…


あのメモを入れたワインボトルを持ってあちこちを歩いてみた。
途中、美しい歌声を聞いて、兄さんが突然ヒステリックに笑い出した時はヒヤリとした。

そうだ。
ここはサイレンたちの住処でもあるのだ。
さっさと、あの芋虫の用事を済まさなければ…


あの川の中に、「ビンの神託所」はあった。
ビンを水に浮かべると、ただよっていってしまった…


どこにあるかは予想が着いている。
あの、「忘れ物の島」だ。


そう私はイチかバチかで行ってみた。
幸いにして、島を根城としていた巨人には会わずに済んだ。

ほっとしていると、古い栓がしてあるビンが岸辺の砂の上にころがっていたのを見つけた。

中には、確かに芋虫の言った通り、「番号」が書いてあった。

後は、私たちで、あの美女「マイ・ライ」に言えばいいのだ―




「ところで、もしお香をお好みなら…
*クンクン*
この煙のかおりは最高じゃよ。
好きなところで使いたまえ・・・」
辺に、
水の翼で探索していると、この辺りはいくつかの群島がある事に気付かされた。

ミノ・デーモンのいた「亡者の島」の近くに、
以前カロンが言っていた「死者の島」。

さらには、「忘れものの島」や、何者かがうち捨てた物品だけが積み上がっている島などがあった。

自分たちはそうした、宝箱から何か役にたつものはないかと捜し始めた。
そんな中、フランソワがかなり昔にすてられた何かの用具を見つけた。
何か、とはいうまでも無く「釣り」の道具だった。

釣り針と釣り糸、そして何故かコルクの栓がその箱には入っていた。
若干汚れているが、何かに使えそうだと思った。


そして「忘れものの島―捜索と発見」
島の岸辺は砂におおわれ、海水が打ち寄せていた…

と、いきなり目の前を棍棒が掠めていった。

「危ない!!」

一瞬反応が遅れたら、頭が吹っ飛ばされていた事だろう。
その島には、いつから住んでいたのか、この島を縄張りにする巨人たちが自分たちに襲いかかってきたのだ。

それも、大量の、巨大な「蚊」も引き連れて―
あの大群に襲われたら、ひとたまりもない―
刺されたら「かゆい」どころではない。
全身の血が吸い取られてしまいそうだ。

だが、自分たちも十分レベルが上がっている。
言うまでもなく、あっさりと勝負は付いた。
兄上とフランソワ、二人で巨人の首を一太刀で切り落とし、後の蚊どもも自分の「ニュークリア・ブラスト―核撃―」にて一掃した。


「ふう…やばかったな」

「ええ…完全に気付かなかったら、私たち全員がアウトでしたね」



砂を掘り返してゆくと古い金属のかぎが出てきた。

さらに近くの壁には
「海にて行方不明
D・J・ロッカー
赤いX 東3北1」

という走り書きがなされていた。
メモの意味は始め分からなかったが、川の東側の断崖に着いて理解した。

断崖の壁には、大きな赤い"X"が
何か特別な印のように岩の表面に記されていた…

「つまり、東に三歩、北に一歩進んだ所にあるんだな、宝が」

兄上の張り切りようは、あのゾーフィタスが閉じこめられているダイヤモンドの壁を見つけた時以来だ。

早速釣り針に糸を付け、水中に垂らしてみた。

何かに引っかかった!
かなり重そうだ!

「ぬぐぐ…」

兄上一人では大変そうだということで、自分とフランソワも一緒になって引き揚げた。
どうにかこうにか水中から引き上げた
その重いロッカーは、さびだらけになっていた。

中には、壊れた指輪と杖、そして鍵だけだった。

…それでも、壊れた指輪はそれなりに価値がありそうだったのでいずれ誰かに売り飛ばそう、と兄上はまだ機嫌が良かった。


その鍵は、近くの水門の鍵のようだった。
門をくぐり抜けてみると、
そこは城の東、奇妙な沼が広がる地だった。
その湿原の木々の間には小道がはりめぐらされ、歩き回ることができるようになっていた。

しばらく暗いじめじめした場所にい続けたため、全員が開放感を感じていた。
日にちにしてみれば、城に入って10日目だ。
早く脱出したいとは思っているが…

しかし湿原のためか、少し霧がかかっていた。
その霧の向こうはるか彼方に、かすかに城のシルエットを見分けることが出来た。

…どうやら脱出する方向と反対側か、あるいは少しずれてしまったのだろう。
地理観のあまりない土地なので、ここから自国へ戻ろうとしたら危険だということで結局、視界の効く所だけ探索する事にした。


湿った地面にはわずかに小さな足あとがついていた。
それははね回る小さな生き物の
足あとのようで、近くの藪の中へ続いていた…


藪の中を見たが、何にも無かった。
一体あれはなんだったのだろう…

始め、彼女たちが水中から現れた時、兄さんは「おっ♪裸のねーちゃん」と言いたげな顔だったが、その数が半端ない事が分かると緊張を漲らせた。
どれも美しい女性たちばかりだった。
だが、それだけに危険を知らせる心の声が大きくなっていた―

彼女たちはしばらく、物音ひとつ立てなかったが、
水の音が静まるとたおやかに忘れがたい声色で歌い始めた…



―我らはサイレン
海の姉妹
我ら歌う哀しみの歌
そよ風をこえて
たとえ心に愛ありとても
我らを解き放つは狂気
悪夢へ誘わん男たちを
そのやさしき祈り聞かせて
逃れる者は唯一
サイレンの哀歌を知る者
恐ろしき時
我らののどよりおどり出る
死の定めから逃れん
我らを舞い上がらせるは狂気
いざ!
サイレン生ける者を誘わん
海の上なる死へ…


そこでサイレンたちは、無敵を誇る船乗りたちを震え上がらせ、船の竜骨をもきしませる、恐ろしい不協和音のハーモニーで泣き叫び始めた。

聞いているだけで、鼓膜どころか神経・精神まで引きちぎられそうな音だった。
耳を塞ぎたいのに、不協和音にも関わらず彼女たちの歌はこちらの耳と動きを完全に封じてしまっている。

兄さんもそろそろ限界のようだ…
姉さんも…


突然、不協和音のハーモニーのそれにかぶさるようにひとつの声が高らかにさけんだ。

「姉妹たちよ、我らは何者?」

続いて、大勢の声が応えた。

「我らはサイレン!」

再び、ひとつの声が問う。

「我ら何ゆえ歌う?」

泣きさけぶ声が応える。

「我ら狂気ゆえ」

歌はさらに高まり、一つの声はそれに応えた。

「姉妹たちよ、我ら何を歌う?」

コーラスが続く

「サイレンの哀歌!」

歌は熱狂的にたかまっていった。
と、突然、彼女たちの一人がこちらを向きさけんだ…

「では、サイレンの哀歌とは何?」

それは咄嗟だった。
あの、アイラおばさんの墓にあった書物の一節が脳裏に浮かぶと同時に喉から躍り出たのは奇跡としか言い様が無かった。

「我らを解き放つ狂気!」

その途端、ソロを歌っていた、ひときわ美しいサイレンが、心までとろかす様な笑みを浮かべた。


「おお、気高き旅人よ!我らの哀歌を ご存じであったか!
あなたがたは、自らえらんだ道でもう一度自由に戻ることができよう。
しかし、お忘れめされるな。
サイレンは常に旅人を狂気へ誘い続けねばならぬということを。
なぜなら、狂気だけが彼女たちを解き放つのだから。
生けるものは水を恐れるがよい!
とはいえ、あなたがたは我らの歌を聞きいまだに死をむかえてはいない。
それゆえ、我らはあなたがたの旅を助けることにしよう…」

そう言うと、そのサイレンは私に半透明の、触った感じは個体と液体の中間ぐらいの、翼を渡した。
否、それは翼を模した、美しい「水のつばさ」と呼ばれるものだった。

それと同時に、サイレンが手を伸ばしてきた。
意味は何故か理解出来た。
サイレンの歌が記された書物を、私は無意識の内に差し出していた。

「我らのおくり物、この魔法のつばさをその本のかわりにお受け取りなさい。川を旅するときに役立ちましょう。
生けるものの足は水の上では役立ちませぬから。
さぁ、我らは行かねばなりません。
すぐに狂気が我らを解き放ち、今起きたことは忘れ去れるでしょう」

ふと、サイレンは悲しげな表情を浮かべた。
悲しげというよりは、諦めたような何かを達観してしまったような顔だった。

「我らが求める自由とは、過去から解き放たれること。
我らをしばり、哀しませることはすべて過去にあり、
それゆえ我らは歌い、忘れ、解き放たれるのです。
我らを解き放つもの、それは何もかも忘れてしまうという狂気なのです…」

そしてサイレンは静かに水底に消え去っていった。
まるで何事も起きなかったかのように…





「…一体、彼女たちに何があったのだろうか―」

「んなもん、知っても意味は無いだろう」


さすが兄さん…
情緒ゼロ…


「さて、あいつらは首尾良く帰ってくれたが、また戻ってきたら厄介だぜ。きっと今度はこっちが完全に発狂させられるまであのコーラスを聴かせる気だぜ」


それももっともな意見だ。
私たちは水のつばさをはいてみてから、水の上に足を踏み出した。

不思議にも、陸上とほぼ同じ感覚で歩く事が出来た。
それでいて、意思を持ってすれば水中に泳ぐ―否、隠れる事も出来るのだ。
彼女たちの誠意―ありがたい贈り物は大事に使おう―
そう私は思い、しばらくこの川を探索する方へと神経を傾けた。
とりあえず、漁るだけ漁った後、さっさと俺たちはこの陰気な場所から立ち去る事にした。
長居していれば、また亡霊に襲われる危険があるからだ。

出て気付いたが、この地下大墓地に通じる大広間には魔法の泉が涌いていた。
言うまでもなく、全員がぶ飲みした。
何だか分からないが、時々この手の飲み物があるのだ。
時々毒(というか、ただ単に腹をこわしただけと思われるが)があるので、不用心に飲む事は出来ないんだが…

ともかく飲んだ後、俺たち全員生気が戻ったような感覚になった。
もっとも、お腹がたぷんたぷんしてちょっとつらいが。

亡者の島の牢獄みたいな場所の門の外の水面には、大きな板で作られたいかだが浮かんでいた。
そして、丈夫そうな鋼鉄製のケーブルが壁から伸びて、いかだのクランク付き巻き上げ機につながっていた。

カロンの爺に頼んでもどうせいつものルートしか行かせないのは目に見えている。
多分前進するには、このいかだを動かすしか無い。
いかだに乗り、ケーブルを引き出すようにクランクを回すと、いかだはゆっくりと下流に向かって動き始めた…


下流に向かってる最中、俺たちの前に、不気味な影が水中に浮かびつつあった。

「こいつは…」

一見すると大蛇みたいな形だが、泳ぎが滅法うまい。
否、大蛇だ。
シーサーペントだ!

と突然、いかだの後方から派手な水しぶきと共にいかだが揺れ始めた。

「私たちを水中に引き込む気だ!」

フランソワが言うまでもなく、シーサーペントはいかだを大破させようと尻尾でいかだを煽りだしている。
勿論、俺たちが水中で戦える訳が無い。
かといって、引き揚げて何とか出来る相手ではない。
もっとも、狭いいかだの上に引き揚げるなんて出来ないのは言うまでも無い。

「ちっきしょう!!何とか近くの岩場までいければ…」

だが、近くには岩場が無い。
否、周辺にはうっすらと霧がかかっているために視界が効かない。
それだけに絶望的な状態だ…


「こうなれば一か八かだ…」

テレジアが静かに呪文を詠唱し出している。
大揺れしていて、時折シーサーペントの尾が叩きつけているというのに…大した女だよ、お前は…

その途端、いきなりシーサーペントが悶え始めたような動きを示したかと思うと…
襲撃は止んだ。
同時に、シーサーペントが水際に浮かんできた。
全長10メートルほどはあろうかという巨体はまったく生気が感じられない。

「…デス・ウィッシュ(脱魂)が効いたな…」

デス・ウィッシュ…
死神を召還し、敵対する全ての魂を運び去らせる、古代の禁術の一つだ。
万が一、術者の力量不足の場合、死神は術者を標的にする場合もあるという物騒極まり無い呪文だ。
…いつの間に、お前そんな物騒な呪文を覚えたんだ…(汗)


「転職を繰り返しまくったら、覚えてしまったのだ。あらかたの呪文はもう自分もフランソワも覚えてるぞ」



何!?


俺は全然きいてないぞ!!


「多分、兄上は物理攻撃専門員にしたんじゃないのか? 呪文をバンバン使うよりも、クリティカル攻撃で致命傷を与えまくる方が性に合っているんだし」


…プレイヤーめ!!
俺を育てるのを怠りおって!!


なんだかんだ言ってる間に、いかだは静かに目的地であろう岩まで辿り着いた。
そこには看板で

「サイレンの入り江 船乗りは警戒せよ!」


とあった。
入り江はとても静かで
だれもいないようだった…


「助かったな、さっさとここから逃げた方がいいな」

サイレン―
確か、船乗り達を発狂させる歌を奏でる魔物らしい。
一匹や二匹でもやばいというのに、ここら辺は信じられない程の群で襲ってくるらしい。
危険過ぎる。
さっさと逃げよう、と俺が言いかけた時だった。


「遅すぎたようだな、兄さん…」

珍しくあのフランソワの顔に余裕や落ち着きが無くなっている。

突然、何者かにまわりを囲まれてしまっていたのだ!

水底の奥深くから、水しぶきと共に怒濤のように数多くの肉体がせりあがってきた。
半分が女性で、半分が魚という姿のその生き物は、まるで生まれてからずっと海中でくらしてきたかのごとく、やすやすとそして、しなやかに水の中を動き回った。

いかだのたどり着いた岩は、彼女たちに完全に取り囲まれてしまった。


地下大墓地へ入ってみた。
小さな地下の墓所には、かびとすえたような臭いが充満していた。
おそらく、腐りかけた死体の臭いもまざっているのだろう。
この部屋には、長いことだれも
入りこんだことがないようであった…

東西に、それぞれ大きな霊園が配置されていた。
当然ながら、入る事は出来なかった。
鍵が掛けられていたのだ。

どこかに鍵があるに違いない、と思ったのは、これまでの経験からだ。
尤も、鍵を手に入れるのは骨が折れる事ぐらい何となく察しはついていたが。

一番奥の部屋にあった、鍵を取るには、腐った死体である守護者たちと戦わねばならなかったのだから。
あっさりと「ディスペル・アンデッド」で倒せるにしても、その数の多さにさすがに辟易してしまった。
どれだけ、この地には死者が葬られているのだろう。

鍵を手に入れた後、自分たちは墓地に足を踏み入れてみた。
その墓石には、死者たちの経歴が刻まれていて、なかなか興味深かった。

部屋の中には、死者の想い出を
刻んだ墓石がならんでいた。
亡者の島などと呼ばれているところに
このようなものがあるのは、
何か少しそぐわないようにも思えた…

例えば…
ブリ親分
「敬愛されるあまり、237回射抜かれた」

イララビじいさん
「わけありて死す、多くの者を殺したがゆえに」

ごろつきのイララビ
「理由持つ戦士、子供ばかりをあやめる」

うぬぼれのゴダイラブミー
「だれも必要とせず、だれも得られず」

変わり者のリー
「だれにも理解されないとわめき、皆に視力をうばわれる」

休みなしのビリー
「立ち止まることなく、果たされることもなく」

アイザック先生
「その脳みそすべてに、いまだ飽かず」


…こういった具合だ。
右の墓場だけでこういった興味深い、皮肉たっぷりの墓石だ。
もう片方も一応メモをしておく。


ほらふきのバルダ
「あまりに人気者で、ついには飽きられた」

向こう見ずのドン・マロー
「何事も恐れず、ビュイックにひかれる」

おせっかいのマンディー
「あくなきこと乞い求め、皆からうとまれる」

泣き笑いのハーポ
「皆にほほえみを与え、自らは酒に死す」

イヌ好きのドン・ジュアン
「熱情を求めて、熱病にたおれる」

うるさがたのアイラおばさん
「彼女の王子様を待ち、いまだに待ちぼうけ」

おひとよしのクライド
「はたらいて、はたらいて、一文も得られず」


無論、墓場で勝手に動きまわったせいだろう。
いくつかの墓地において、骨の平穏を乱してしまい、亡霊を呼び起こしてしまったのだ。
ディスペル・アンデッドでも浄化しきれない悪霊が多かった。
特に、「うるさがたのミス・アイラ」はしつこかった。

「貴様等はわたしの王子サマじゃなあああいいいいい」

とわめきながら泣き叫んだのだ。
これには、兄上もフランソワも効いたようだ。

倒した後に得たものも不気味な品だった。
絶望の首飾り…持ってみて思ったが、生前の彼女の絶望の想いや執念がたっぷりと込められていたのだ。
言うまでもなく、その場で破棄した。
冗談じゃない。
ちなみに兄上から「お前もこうならないよう、ある程度見切りをつけろ」とか言われたのが、個人的にちょっと頭に来た。
別に、自分は「王子様」とやらを待っていていき遅れた訳ではない。

その時、アイラの亡霊が落とした書物が気になった。
サイレンの書という、書物だ。
中身を見てみたら、サイレンたちの歌が記されていたのだ。

何かの役に立つかも知れないと思ったので、メモをしておく。


我らはサイレン
海の姉妹
我ら歌う哀しみの歌
そよ風をこえて
たとえ心に愛ありとても
我らを解き放つは狂気
悪夢へ誘わん男たちを
そのやさしき祈り聞かせて
逃れる者は唯一
サイレンの哀歌を知る者
恐ろしき時
我らののどよりおどり出る
死の定めから逃れん
我らを舞い上がらせるは狂気
いざ!
サイレン生ける者を誘わん
海の上なる死へ…

ソロ:姉妹たちよ、我らは何者?
コーラス:我らはサイレン!
ソロ:我ら何ゆえ歌う?
コーラス:我ら狂気ゆえ
ソロ:姉妹たちよ、我ら何を歌う?
コーラス:サイレンの哀歌!
ソロ:では、サイレンの哀歌とは何?
コーラス:我らを解き放つ狂気!
亡者の鍵を使って、亡者の島に遺されている墓であろう堂に入ってみた。
堂は外見の大きさに似つかず、かなりこぢんまりとした作りになっていた。
そのくぼみの中に、このミノスの島で最期をむかえたさまよえる魂の遺物である骨のかけらが、山のように積み上がっていた。

近くに小さな壷が落ちていた。
恐らく、骨壺―カロンが言っていた、「遺灰」であろう。
どんな人間かは分からぬが、骨になったとはいえ、剥き出しにされ、ロクな埋葬もされないのはさすがに哀れだ。

そっと余は、壷に遺灰を入れた。
…500Gにつられたわけではないぞ。

最後に一番奥の堂に入った時だった。
いきなり、魔獣に襲われたのだ。
それは、雄々しい男の身体だが顔は猛牛という、いわゆる「ミノタウロス」のような化け物だった。
口から炎と同時に、次のような言葉を吐いて襲いかかってきた。


「何千もの子羊たちがいけにえにされた。わしがミノスの呪いから死をもたらし、空虚を作り出すために。
生きることを求めた者は、皆死して平穏を得るのじゃ!」

どうやら、この悪魔は相手を殺す事で安らぎを得ていたのだろう。
犠牲になった魂を束縛する事で。

無論、そんな生贄なんかになるつもりは毛頭ない。
炎を吐く魔物だけに、あっさりと余のディープフリーズで倒れた。
ふっ。
雑魚めが。
※神聖皇帝の言とは思えない

すると、死したミノの悪霊が巻き起こしたほこりがおさまった後、亡霊のような表情が現れた。
恐らく、このミノスの島の呪いによって囚われた者の魂なのだろう…


「そなたはわしを開放したのじゃ!
何年もの間、わしはこのミノスの島に
囚われておった。
行いではなく言葉によって
もたらされた呪いのために…
わしは言葉による殺人ゆえに呪われた。
言葉だけで人をあやめ、
言葉だけでその者を
死に いたらしめたのじゃ。
最初に私が『信じろ』と言ったとたん、
まるで剣の刃を見せたかのごとく、その者の
目の光りは失せ どんよりとなり、 心は機能を
失い、ほほえみから、あたたかみが消えた。
男の精神はいずこともなく さまよい、
長いこと新しきことを見、
知識をもて 生きるものに仕えていた
若き瞳は意味なく見開かれた。
わしが『真実』について語った
まさにその日、わし、すなわち
わしであった彼は死んだ。
そしてこの長き間、生命のわずかな
残りかすが おぼえていたがために、
この消え行く思考のこだまも
またここに残った。
これはミノスの島の我が呪い、
黒き水からひびく 遠き声の教えなり。
新しきものを見つめるもの、
なんじに、神の恵みのあらんことを。
災いは空虚、すなわち見ることのあたわぬ
老いぼれ、『本当』といわねばならぬ者に
残してゆくがよい…

そして亡霊はたち消えていった

…またわけのわからぬ話を延々と聞かされた。

と、その埃の中にキラリと光る物があったので、拾ってみた。
それは鍵だった。

…中央の堂の最奥に入るための鍵だ。
あそこは地下大墓地になっているようだった。

行ってみるか。

再び、あの扉の前に来た。

両目に宝石が戻った途端、扉のしゃれこうべが
悪魔のような冷たい笑みを浮かべた。

ゆっくりと扉を開けると、そこにはさらに地下に通じる螺旋階段があった。
開いた途端、冷たい空気―体感的なもの以上の何かを感じ、思わず身震いした。
身の毛もよだつ、と言えば語弊があるかも知れないが、この向こうにはよからぬものがいる気配をびんびん感じたのだ。

しかし、外界に繋がっているかも知れない。
意を決し、万が一の事があってはいけないので私が陛下の前に立って螺旋階段を降りる事にした。

階段を降りるにつれ、外界に繋がっている事は間違いない事に気付いた。
外の空気には水の香りが感じられた。
どうも近くに湖か何かがあるようだった。

螺旋階段が途切れた場所は、切り立った岩場―そして周りは川だった。
どうやら、城の基礎部分にまで降りてきてしまったようだ。
と、今いる岩の絶壁を取り囲み、曲がりくねりながらすべての方向、
目がとどく限り遠く、はるか彼方の洞窟まで続き、
霧の中に消え去るそれが目に入った。


「オズワルドよ、どうする? 行き詰まりだ…」

泳ぐ事も考えたが、魔物が跋扈している城の地下だ。
水の中にはもっと危険な魔物がいるであろう事は予想できたため、泳ぐのはやめた。

しばらくすると、陛下が岩場に何かを発見なさった。
指をさした場所をみると、床の上には、数多くの奇妙なルーン文字や印で飾られた円形の紋章が彫り込まれていた。
その内側には、わくにおさめられた墓がボートで水の向こうへ運ばれる光景がかかれていた。

「死が扉の向こうで待っている…か」

ミスタファファスが言っていた言葉を陛下は思い出されたようだ。
墓―水の向こうへ運ばれる―

ふと、大昔どこぞの神話の物語で聞いた事がある。
死者の川の舟守―

「む? この角笛にも似たような印があるな…」

陛下は円陣の上に立たれ、角笛を思い切り吹き鳴らした。
それは、水面のはるか彼方にまで届く印象的な音色でなりひびいた。
そして、こだまも消え行き、川一面は再び静けさが支配した。

「…やはり軽率だったかな」

そう陛下が呟かれた時だった。
霧の向こうから、暗い人影がゆっくりと現れた。

"死"がやってくるのだろうか―

否、まるで"死神"のような風貌をした男が霧の向こうから現れたのだ。
黒いローブに身をつつみ、骸骨にみまごうばかりのやせ細った人影だ。
細長い船の先頭に立ちながら、男はゆっくりと船を岸辺にみちびいた。

その男からは特に邪気は感じられなかった。

「私はカロン。遺灰の船頭をしている。死者の川の船頭だ。
私に遺灰を持ってきたのかね?」

「否、遺灰は持っておらぬ」

「…川を渡りたいかね?」

渡りに船ではあるが、遺灰の船頭…
魂の船頭ではないのだから、命を取られる心配は無いのだろうが…

陛下は「頼む」と恐れずにカロンの申し出を受けた。

乗るには500G必要だった。
しかし、今の私たちはそれぐらい簡単に出せるのですぐに支払って船に乗り込んだ。

船の乗り心地は悪くはない。
むしろ快適すぎる程だった。

しばらくカロンと私たちは話をした。


「ここは死者の川という所なのか?」

「死者の島、死者の土地…あまたの道がある…。ここはその端だ」

「貴公は船頭をしているというが、どういった仕事なのだ?」

「私は死者の船頭だ。私は遺骨の灰を死者の島に運んでいる」

「遺灰とは何だ?」

「死者の形見だ。私は灰をみつけたものに、500Gを支払っている。死者は死者の島のものだ」

ふと、水の上を漂っていると聞いたゾーフィタスの事が頭を過ぎった。

「ゾーフィタスを知って居るか?」

「正気を失い、困惑した魂…死んだ。しかしいまだに生き続けている!」

何も事情が分からない者ならば、謎かけと思える返答だ。
しかし、カロンの言葉は「善」のゾーフィタスの言葉が正しかった事を示してくれた。
「悪」のゾーフィタスは生きているのだ。

「では、この城の王妃も知って居るか?」

「その魂は復讐を叫んでいる!死者の土地で会うことができるだろう」

「レベッカについては?」

「アァ、私を妃のところへ追い立てた悪魔の子だ!王を探せばその側にいるだろう!」

「では王は―」

「死者の土地にて、生きながらえている。
彼は多くを おくってよこした…
そして、お前もまた…
死はあまたの姿を持っている…」

そういっている間に、一層空気の澱んだ孤島に近づいた。

「ここは死者の島だ…」


さらに数分進んだ所に、また小島が見えた。

「ここは亡者の島だ…ここが終点だ…」

礼を言って降りると、カロンは器用に櫂を使って反転すると去っていった。



島にはいくつかの鉄格子で区切られた、堂のようなものがいくつか立てられていた。
まぎれもなく、ここは墓場の島だった。

手前の堂の入り口にあるレリーフには、「ミノスの島 亡者の地」と彫られている。
と、門の根本あたりに、一冊の本とかぎがひとつ、ころがっていた。

その本は、「亡者の書」というタイトルが彫られていた。
何かヒントになるのではと思い、書物を読んでみた。


「ミノスの呪い
ミノスの島に住む者
ミノスの呪いによって滅び、
悪霊の姿にて現れる。
かの者、他者の破滅が自らの開放のかぎと教えられ、
それがゆえに、
かの地を訪れ
かの者と戦う者が現れ、
かの者が勝利をおさめ
呪いより解き放たれる解きが
訪れるのを
永久に待つ
しかるに、かの者は知らぬが、
その自由、かの者の敵が
勝利をおさめる時にのみ与えられる
なぜなら、敵はかの者を死にいたらしめた行いに
なやむがゆえに破滅し、
それゆえかの者は自由を得るのだから…」

読み終わると、本が散り散りになった。







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