オズワルドの手記―
亡者の島を出た時、カロンに遺灰のいくつかを手渡した。
カロン自身から貰えた報酬の他、遺灰の前の持ち主たちの念(どうやら死者の川を渡れるという感謝らしい)も報酬として受け取った。
だが、三つ目の遺灰の入った壷を渡そうとしたら…
カロンは受け取りを拒否したのだ。
「すまないが、私はこれには、さわれない!
これはあなたがたが戻したほうがよい…
ここにかぎがある。
死者の島に渡って、この遺灰をあるべきところに戻してくれ、
いいね?」
何故カロンほどの者が拒否するのだろうか。
その時まで私たちは理解出来なかった。
死者の島は群島の中でも、ひときわ大きい島だった。
中央には、厳重な鉄格子が降ろされている、一種の堂があった。
現世に死者の魂や亡者たちが溢れ出る事を防ぐかのように巨大で、どこか冷ややかさを感じる鉄門だった。
カロンから渡されたカギで開けると、軋んだ音を立てながら門は開いた。
その堂は、納骨堂だった。
内部は八角形になっており、やや無造作に死体―否、骸が置かれていた。
この奇怪な納骨堂の中は、何やらぶきみな気配を感じさせた。
それはさし迫る危機の最初のきざしかもしれなかったが、ただ単にあまりにも数多くの死人に囲まれているというだけのことかもしれなかった…
「オズワルドよ…この骸、生きておるぞ」
ひそめられたであろう陛下の声が堂内に響く。
しかし、陛下のご指摘通り、ここの骸の内何体かは生きている―否、明らかにこちらに対する敵意に満ちている。
「気付かぬ振りをし、こやつらが襲ってきたら…」
「は…」
地下へ降りる階段へ足をむけた途端、襲撃は始まった。
骸の剣士たちが一斉に斬りかかってきたのだ。
「ディスペル・アンデッド!」
ほぼ瞬間的に唱えられた陛下の浄化魔法で、我々を取り囲んでいた骸の剣士たちが崩壊していく。
だが、何体か―かつては手練れであった剣士たちであったのだろう―は残っていた。
それだけ、執念が残っているのだろう。
数回斬り結び、強打して粉砕し、何とか襲撃を切り抜けた。
地下へ続く階段の先は暗く、果てのない深さを感じさせたが、実際降りてみるとそこまで深い、というわけではなかった。
降りた先には、小さな祭壇があった。
そこには次のような墓標があった。
「失われた戦士」
―想い出をこめて。
彼が家路につけますように―
小さな遺灰の入ったつぼを、祭壇に置いた。
祭壇の上には黒い骨つぼが置かれ、
いくつかの遺灰の山が安置されていた。
その遺灰は心地良い香りをただよわせ、
暗く陰うつな墓地の雰囲気を
やわらげていた。
遺灰の入った壷を置いた時、背後の扉が開く音に気付いた。
今まで気付かなかったが、その扉の上の文字に思わず私はゾッとした。
―死者の殿堂―
ゾッとしたのは、あの奥に何かいる気配を感じたからなのか、地下独特の寒さに身体が冷えてしまったからなのか―
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