小さな、何かの生き物が飛び跳ねた辺りの足跡がある近目の前には、見たこともないような奇妙な光景が見えた。
たくさんのうでとあしのある奇妙なやつが、沼のそばに生えているキノコのてっぺんにすわっていたのだ。
男は神経質でこうふんしやすそうな感じだった。
香りのきついキノコの上にすわっている巨大な虫のような姿の男は、ペンを使って何やらふくざつな数式らしきものをいそがしけに紙に書き付けていた。
と、突然こちらの存在に気づいた男は、おどろいて小さく鼻をならし紙を取り落とした。
「うむ…なんということだ!」
彼の小さな瞳は鼻の上で大きく見開かれ、しばらくこちらをじっと見つめた後、ついに口を開いた。
「タバコはやらんのだろう?え、どうかね?」
「いや…私はタバコを知らないんだ…」
「そうか…わしはようするにいも虫じゃ・・・この城の沼地に住んでおる。おぉ、タバコが吸いたい!」
「城の沼地?」
私が聞くと、いも虫は答えてくれた。
「直接、城には行けんがの。沼は危険が一杯!まさに我々はその中に立っておる!」
「そのキノコは何?」
「素晴らしい発明じゃと思わんかね?!こいつを食べる者もあるし、ただすわる者もおる。まさにわしは今すわっとるよ」
「小さな足あとを見つけたが?」
「デーティーデー、うさぎのあとを追いかけろ…だが、捜すには霧がこすぎる!」
「うさぎだって!?」
「おくれたので走った!もういない! すでに去った!まあ、気にすることではない」
「コズミック・フォージのことは?」
「それはなんのことかね?それについてはなにもしらん。聞いたこともない。」
やはり…
コズミック・フォージの事はそう易々と知れるわけが無いとは思っていた。
…で、運命の手と言われるペンとは到底かけ離れているペンについて話題を振ってみる事にした。
「そのペンは?」
「これはごくふつうのペンじゃ。今それで仕事をしておるよ・・・このペンはわしに必要じゃ。」
「仕事?」
「わしはキセルがどこにあるか計算しておるのじゃ!」
「キセルとは?」
「昨年の夏、島の方にバカンスを取りに行ったときに、持って行ったのまではおぼえておるのじゃ」
「そこでどこかに預けたおぼえもあるのじゃが、いったいそれがどこだったか…てがかりになるものはたったひとつ、
わしのポケットに入っていた小さな紙切れだけじゃ。
それにはこう書いてあったが…
「お荷物をお引き取りになりたいときは、
担当の者にご連絡下さい」
ふと、私は思いだした。
あの陰鬱な川の中に数多くある島で、「預かりの島」という所―
そこには南洋風の美女が受付として、物を預かってくれる島だった。
「預かりの島へようこそ!たいへんもうしわけございませんが、ただいま倉庫は、いっぱいでございます…しばらくしてからもう一度おこしください!」
そう美女は申し訳なさそうに言ってきた。
せっかく預かって貰おうと思ったのに…残念だ。
仕方なく、私は彼女と少しばかり会話を交わした。
「こんにちわ」
「ウーラ、ウーラ!
わたくし、マイ・ライともうします!
ここは預かりの島、荷物を預かる所です」
「預かりの島?」
「わたくしが倉庫の担当をしております。ただいま倉庫は一杯でございます。お荷物はお預かりできません」
「倉庫が一杯?」
「わたくしたちはお荷物を倉庫でお預かりいたしておりますが、ただいま倉庫が一杯でお預かりできません」
「奥のほうの物音は?」
「守衛のボークです。たいくつしているので、なにかしたいと
言っています」
「ボーク?」
「ボークは倉庫の守衛の者です。身長は40㎝ほどですが、象を投げることもできます」
なるほど。セキュリティーは万全だな。
「コズミック・フォージ?」
「それはなんのことでしょうか?存じませんが…」
結局、彼女に「魔法使いの指輪」を手渡すだけで終わってしまったが、あの島に立ち寄っていたのは良かった。
恐らく、この芋虫の「キセル」はそこにあるに違いない。
「まったく…お話しするのもおはずかしいが、わしは大事な水ギセルを
どこかに置いてきて、それがどこだかおぼえておらんのじゃよ…
見てのとおり、わしは今、問題の水ギセルの最後に確認されている物理的座標と、わし自身の正確な時間的、空間的位置に関して再計算をしておる。
そうすることによって、この宇宙のどこかにキセルがあるのかを突き止めようとしておるのじゃよ」
「もしや預かりの島では?」
私がそう言った途端、いも虫の顔がいきなり目の前まで迫ってきた。
まったくもって、昂奮しやすい男だ…
「預かりの島?そうだ! 預かりの島に倉庫があった!
そこに預けたにちがいない!倉庫に行って取ってきてくれ!」
「引換番号が必要ですね」
「引換番号?引換番号!!?おぉ、なんということだ!
あの数字はそういう意味を持っておったのか!
どおりで、我が水星が水瓶座の上で金星とぶつかると予言されるわけじゃ!
しかし、それがなんであったのかを教えてもらっても、わしはその数字をまったくおぼえておらんのじゃ…
どうもこれは…
『ビンの神託所』の出番のようじゃな!」
「『ビンの神託所』とは?」
「ビンの神託所は実に簡単なしくみになっとる。問いたいことを紙に書いて、ビンに詰め、そのビンを『ビンの神託所』と書いてあるところから川に流せばよいのじゃ。後はそのビンを捜し出せば、まるで魔法のように、答えが中に記されているというわけじゃ。素晴らしいじゃないか、エ?どうしてもっと早く思いつかなかったのか!」
いも虫は何かを紙に書き付けて、それをこちらに渡した
「このメモをビンの中に入れ、栓をして、ビンの神託所にまかせてくるのじゃ。答えはもうすぐわかるぞ!あぁ、タバコが吸いたいのぉ!」
「ビンはないの?」
「すまないが、ビンは持っていない。ビンの神託所のサインのところで、ビンを流したまえ」
…だが、あの城で空のワイン瓶を持っていたのは幸いした。
丁度ワインのビンのコルクを持っていたのだ。
あの芋虫に何の義理も無いが、一応頼まれた事だ。
やり遂げてやろうと思う…
あのメモを入れたワインボトルを持ってあちこちを歩いてみた。
途中、美しい歌声を聞いて、兄さんが突然ヒステリックに笑い出した時はヒヤリとした。
そうだ。
ここはサイレンたちの住処でもあるのだ。
さっさと、あの芋虫の用事を済まさなければ…
あの川の中に、「ビンの神託所」はあった。
ビンを水に浮かべると、ただよっていってしまった…
どこにあるかは予想が着いている。
あの、「忘れ物の島」だ。
そう私はイチかバチかで行ってみた。
幸いにして、島を根城としていた巨人には会わずに済んだ。
ほっとしていると、古い栓がしてあるビンが岸辺の砂の上にころがっていたのを見つけた。
中には、確かに芋虫の言った通り、「番号」が書いてあった。
後は、私たちで、あの美女「マイ・ライ」に言えばいいのだ―
「ところで、もしお香をお好みなら…
*クンクン*
この煙のかおりは最高じゃよ。
好きなところで使いたまえ・・・」
辺に、
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