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わたしは自分がなにを感じ―なにを考え-ているかを書いてみたいと思う(キケロ)
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気付けば、夢中で余は洞窟の中に迷い込んでいた。
雄牛の仮面を付けた野蛮な戦士どもからは逃れられたものの、
奇怪な洞窟に逃げ込んだ事を後悔した。

得体の知れない何かがいるのを肌で感じたからだ。

何とか目を凝らして進んでいくと
その岩だなを切り開いて作られた壁面を
またたく炎の光がてらしていた。


何かが起きるのではないかと思いながら
洞窟に入ったが、何事も起こらなかった…


ふと、冷たい空気を感じ後ろを見ると―

突然、幽霊があらわれた!

女の亡霊だが、邪気は感じられない。

手には聖なるハーブであるヒソプを握りしめ、片手には何か
巫女の使う聖なる器具が握られているのがまたたく松明で
何とか見えた。

その亡霊は

「おぉまぁえぇはぁだぁれぇだぁぁ??」

と突然誰何してきた。

「余は神聖ラーナ帝国の皇帝だ」

と名乗ったものの、正しい答えでは無かったようだ。

「たぁちぃさぁれぇぇ!!」と不気味な声とエコーを残し、
幽霊は消え去った…。


…どうすればよいのだ。


オズワルドと二手に別れたのは失敗だったと思う。

洞窟の中には無限のゴブリンどもがひしめいていた。
所詮雑魚は雑魚なのだが、その数の多さはいただけない。
奇声をあげながら、久々の犠牲者に襲いかかる奴らの凶暴性は
あの狂気の雄羊の戦士にも劣らない。

何とか退けたものの、魔法の森は恐ろしいまでに入り組んでいた。
それだけではない。

城一つ分軽く超えるような、巨大な蜥蜴が闊歩しているのだ。

あまりの巨大さに思わず見入ってしまったが、

万が一あれに襲われればひとたまりも無い。

こちらの手持ちの魔法―

たとえば、酸素を全て奪い、窒息死させる「アスフィシエクション」が有効であれば良いのだが…。

幸い奴らに見つかる事はなかったものの、途方に暮れた。


これからどうすれば良いのだ?

あの災いの王は我らを捕らえ、あの雄羊の寺院の中に監禁した。
さらにこの魔法の森は、正気の者を狂わせ
取り込もうとしている。

何とかオズワルドと合流出来ればよいのだが…。

途方に暮れ、ひたすら余は森をさまよった…
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気付いた時、私たちは牢屋に入れられていた。
悪魔の娘、レベッカに催眠術にかけられ王に首を噛まれる直前―
私の手に握られていた銀の十字架が、私だけでなく兄さんたちを守ったのだ。
怒った王は、私たちを睨み付け、失神させた―
そこまでは覚えている。

後は、悪夢だけしか記憶に無い。


ふと、鉄格子の外を見ると、気味の悪い雄羊の仮面を被った監守たちがこちらを睨み付けている。

見れば、私たちは主立った装備品を取り上げられてしまっている。

兄さんも姉さんもようやく気付いたが、全員まだ催眠術の余韻が残っているのか頭がフラフラしていた。
何とか、気分を直そうと、用意されてる飲料用であろう水桶を見たが―
…飲もうとした時、異臭に気付いて良かった。
それは毒入りだった。



「どうする?…武器も無いし、出る方法も無い」

誰もいい案は浮かばない。

部屋を見渡すと、壁の床ぎわに小さな裂け目があった。
その大きさは、ちょうどネズミが
通り抜けられるほどのものであった…


「…ネズミにでもなれば、抜け出せるよな…」

馬鹿げてる、と兄さんが言おうとした時だった。



―ちっこくなるヤツを試してみんかね?



あの芋虫から貰った赤いキノコを思い出した。
幸い、何の害にもならないと王が判断したのか、私のベルトに吊された小物入れに入っていた。


「…やばそうな色だな」

と兄さんは言ったが、思い切って、私たちはそれを三つに裂いて口に含んだ。

段々、周りが大きくなってきている―と感じたが、私たちが小さくなっていたのだ。

大急ぎで、私たちは穴めがけて疾走した。
もう少し穴に近い所で食べるべきだったと思った。

一般的な人間で一歩にも満たないその場所に行くのに、時間がちょっとかかってしまったのだから。
さらに悪い事に、監獄で―弱った人間を餌食にしているであろうネズミに見つかったのだ。

ただでさえ丸腰の私たちが、小人状態で勝てるわけが無い。

ブランディング・フラッシュを唱え、ネズミたちが面食らう隙を突いて何とか穴を通り抜けた。

顔に冷たい空気を感じた時、辺りが急に小さくなっていた。
否、キノコの効果が解けたのだ。

「さっさと出て正解だったな」

本当だ。
もし穴の途中で効果が切れたら、無様にもあそこにはまってしまっただろう。

だが、安堵している暇はなかった。
穴から出てきた後、俄に中の様子が騒がしくなったのだ。

急に囚人が目に見えない程小さくなり、逃げ出したのだから。


「あの森に逃げ込むぞ!」

姉さんの指示は正しかった。
だが、ある意味で危険過ぎた。
そこは「魔法の森」と呼ばれる、魑魅魍魎が跋扈する暗黒の森なのだから。

もう、後にも先にも危険しか無い―
私たちの城からの脱出はますます絶望的なものになっていたのだ―

気付いた時、我々は牢屋に閉じこめられていた。
鉄格子の向こうに、人影がいるのが見える。
一目見なくとも、それが味方である訳が無かった。

いつまでもここにいる気は毛頭無い。

門の向こう側に立っている守衛が
こちらをじっと監視している…

「おい、オマエ! 」

「何してんだかしらねぇが、
とにかくやめな! 」


監守どもは、全て頭に雄羊の面を着け、鈍い色に輝く鎧と幅広の蛮刀をひっさげている。



…ふと、余は持っていた雄羊の短刀の事を思い出した。
相当、王とレベッカは慌てていたのか、それとも手下どもが相当間が抜けていたのか…。
主立った装備品は残っていたままだった。
勿論、短刀も。


短刀の飾りと、奴らの仮面は同じ―
それに気付いた途端―


「おい!
オメェはそれを持ってねえはずだぁ!
どっから盗ってきた、エ?
ほかにどうしてオメェが
持ってるはずがある?
守衛!!」

監守たちがいきなり牢を空けて殺到してきた。


これはチャンスだ!!


オズワルドと余は思う存分奴らを叩きのめし、一気に牢から飛び出し、無我夢中で外を目掛けて走り出した。


運良く、我々は地下牢から抜け出す事が出来た。


牢から出ると、そこはどうやら城の北側だった。
近くに、何か立派な―恐らく外側からみれば大聖堂のような入り口が見えたのだ。

そこには、次のような文章が刻まれた碑石があった。



「雄羊の寺院 会員のみ」


「おい!そこを動くな!どうして外にいるんだ?守衛!!!」


…どうやら先程の監守の仲間たちが外にいるらしい。
数を見ると、厄介だ。
20数人の、雄羊の仮面を付けた守衛―ラム・ガーディアンが、堂内から殺到してくるのが見えた。

選択の余地は無い。

一旦ここを離れるぞ、と余は言い、オズワルドに目配せで合図した。
つまり―


二手に別れて逃げるぞ!と。


…後で考えれば、これが大失敗だったかも知れない。

王妃の話を思い出した。
「彼は城の北に暗黒の寺院を建立し、
そのシンボルとして雄羊の印を用いた」

そして、北側は「魔法の森」という、迷いの森が広がっている事を。
『死者の殿堂』の最奥に、悪魔の娘の部屋―墓があった。


「子の墓
アラムの娘 暗黒のプリンセス」



小さな地下室に置かれた黒いひつぎの
ふたは開いており、真新しい香水と
ライラックの香りがただよっていた。
そして、彼女がそこにいた…

美しい少女だった。
病的なまでに白い肌と、背中に巨大な蝙蝠の翼がなければ、
悪魔の娘だとは分からない程だった。
その顔立ちは、邪悪さをあまり感じさせない―むしろ、普通の少女そのものだった。

彼女は我々を一瞥した後、無邪気に問いかけてきた。

「わたしのこと、ご存知?」

「知っている」

「わたしの名前、知ってる?」

「レベッカ…であろう?」

それを聞いて、彼女は微笑を浮かべた。

「あのヒトが、あなたたちが来るって言ってたわ…
あのヒト、あなたたちがわたしを殺そうとするって…」

思い切ったように、レベッカは問うてきた。

「わたしを殺すの?」

しばらくの間、空気が張り詰めた。
娘の警戒するような眼差しは、陛下の次の返答を聞くまで我々に向けられていた。

「…確かにお前は悪魔の血を引いている。
しかし、我々の目的はその方らを殺すのではなく
ここからの脱出だ。そんな事はせぬ」

「あなたたちのこと、信じていいのかしら…
もしかすると、あなたたち賢いのね…」

その満面に浮かべた微笑みをみると、王妃が嫉妬したというのも分かるような気がした。

「ついて来てくれる?」

その答えを陛下も私も言う事は出来なかった。
いきなり、レベッカがこちらを、にらみつけたのだ!

「ついて来て…」

催眠術をかけられた陛下と私の…

足が勝手に…

先程の王の墓へ…むいて…



部屋の中には、先程の“災いの王”がいた。

「またお会いするとは…哀れな…
君たちにも、多少は知恵というものがあるのではないかと
期待していたのだよ。
どうしてもこうもおろか者が多いのか…」

何という言い様だ…。


「さて…
私は多少のどが乾いているので、君たちの、そのみずみずしい首から、
ほんの少しいただくよ。
なに、渇きをいやすだけだよ…」


彼はゆっくり、牙をむきながら近付いてきた。
しかし、だれもその場を動くことはできなかった。
悪魔の娘、レベッカの催眠術によって、動きを封じられていたのだ…

制止も呪いの声も出せなかった。

ただ、陛下と自分の首に深々と牙を突き立てられ、血と共に精気と生命力を吸い取られるのを見つめる事しか出来なかった。

血を大量に吸い取られたのだろうか…

朦朧とする頭に、“王”の声が響く…


「アーーーァ!
生き返った!
とはいえ、君たちをどうするかという問題がまだ残っている…
レベッカ!」

ほんの少しためらった後、娘は彼の耳元で何ごとかささやいた。

何を言っているのか、さっぱり私は聞き取れなかった。
だが、ロクでも無い事には違いない…

レベッカの提案に、“王”は満足げに頷く。

「うむ、よろしい…おやすみ!」

そして彼の瞳から発した赤い光がパーティー全員に降り注いだ。
そして、皆、気を失った―




……………


………












天使の夢が見える…
ゆれ動く炎のただ中に
人影が見える…

こちらをおどすように
にらみつけている…
その瞳には凶暴な光が宿っている…
強力な呪文を呼び覚ましている…
こちらを破滅に追いやる呪文を…
何かをささやいている…
その声がかすかに聞こえる…
名前のように聞こえる…

ゾォォォフィィタァァスゥゥ…

と、光景が一変する…

部屋には何もない。
しかし壁のすみに、
小さな裂け目がある…

口の中に何やら奇妙な
味がする…

と、部屋の光景が変わり始める。

それは次第に大きく
なり始め…

気がつくと部屋に飲み込まれて
しまっている…

もう、空も見えない…

小さな裂け目は、まるで
トンネルのようになってしまう!

トンネルを走り抜ける…







気がつくとそこは、
小さなうす汚い部屋で、
あたりにはかびと汚物の臭いが
充満していた…。


フリードルムの手の中にある十字架は、静謐で清らかな輝きを放っていた。
亡霊から手渡された品ではあるが、聖なる力を秘めているのは傍目からも分かる。
それだけに、王妃の話は真実みを帯びていた。
あの城で何が起こったかの証人の一人なのだから―


「陛下。いかがなさいますか?」

「そもそも、我々の目的はあの王の討伐ではなく、あくまでもこの城からの脱出だ。あんな王妃の頼みなど聞かぬわ」

そう言うと、フリードルムは十字架をその場に置いた。
王妃の話を信じない
これが、ラーナパーティーの決定だった。

「あの女…嘘を付いて居るしな」

「やはり…気付いて居られましたか」

「うむ。悪魔の娘の母親は、あのゾーフィタスの所業により、命を落とし、生きた屍となって虚ろの状態で生かされておったのだ。牧師の亡霊も然りだ。それに両人が閉じこめられていた塔の鍵…あれは、ゾーフィタスの部屋から出てきた…」

「つまり、ゾーフィタスは王妃の愛人の一人…」

「そういう事になるであろうな。もっとも、SMグッズを持っていたり、ヘビを愛玩するような女だ。余計信じられぬわ」



王妃の部屋からさらに奥に伸びている回廊。
その果てに、小さな部屋があった。


王妃の話が本当ならば、そこが悪魔の娘―レベッカの部屋であろう。

「妃の墓

アラムの女神 没年 ヘビの年」


そう、入り口の碑にあった。
あの“災いの王”の妃の墓だ。

入った所、さすがと言おうか、禍々しさというものは最初感じなかった。

だが、突然だった。


「ガアアアーーーールルルル!!」

獣の咆吼の様な女の叫びが突然、殿堂内に響いた。
あまりの大きさに、余もオズワルドも肝を冷やした。


「うらみを、晴らすのじゃぁー!」

目の前に、暗い霧と同時に女の影が薄ぼんやりと浮かんだ。
徐々に霧が晴れると同時に、王妃の亡霊は現れた。
青白い顔に似つかず、瞳が炯々としている。
先程の“災いの王”よりも違う意味で恐ろしい姿だ。


「お前は、わらわが捜しておった者ではない…
お前は、わらわが待ち受けておった者じゃ!
これからここ、暗黒の城で巻き起こった、
邪悪なる災いの物語を聞かせよう。
それは、お前の背すじが寒くなり、
血の気が引くような物語となろう…」

そうか。
では、聞かせて貰おうか。

「何年も昔のこと、
この国は、みだらではあるが力強い領主によって
治められておった。
神につかえた王の子孫のまた子孫にあたる者じゃ。
だが、この者は、持って生まれた領土だけでは満足しなかった。
その先祖の血が、再び無敵の王たることを欲したのじゃ。
王を王たらしめるのは王冠ではなく、力。
支配する力をもって始めて王は王たりえ、
持たざるものはその座を失う。
真の力は、支配する力を持つことない。
制御することあたわざる者は、
またその力も失う…
それがゆえに、彼もまた、支配、
そして制御することを学び、
さらに見いだしたことをじっさいに用いた。
彼は、権威をひけらかしている限り、
およそ平凡なる者の操作はたやすく、
神からさずかった力を誇示する限り、
他者は彼にこびへつらい、
その支配を受け入れ、
彼の権威に異議をもうし立てることは
無いということを、知ったのじゃ」

なるほど。
確かに、王を王たらしめるものは“力”だ。王冠ではない。
その事は、余も幼い頃より先帝から学んだのだ。
さらに、王妃は続ける。

「彼は城の北に暗黒の寺院を建立し、
そのシンボルとして雄羊の印を用いた。
すでにしてよわき者、おくびょうな者から、
疑惑と恐怖をもって見つめられてきた雄羊じゃ…
そして、この王となるべき者は気がふれたのじゃ!
力を欲する彼の夢は、
おのが自身を支配してしもうた。
このような渇望が常にそうあるように…
そして彼は、その権威にあらがえない者を
もって、聖ならざる征服の戦いに手を染め、
暗黒の力へとかたむいていった…
地獄の底から悪魔の力を呼び寄せ、
彼の力はその望むがままに
強大になっていった。
彼はこの井戸より飽くことなく飲み続け、
力が自らの魂の中に宿ってゆくのがなぜか、
疑おうともしなかった…
ある日、彼は彼の征服の後ろだてと
なっていた暗黒の力のみなもとから、
得た力の代償を求められた。
もちろん、もっともいまわしき代償を!
彼は一人の女、牧師の愛人をとらえ、
夜半にむち打つというおそるべき
儀式をもって、地獄より来たる悪魔に
これをさしだした。
この世界の正当なる支配者を自称する悪魔に。
そして悪魔の娘が生まれた。
その娘は、ふしだらな母親の元でそだてられた。
あの牧師だった男がそばに置かれ、
王の過去の行いにより、
降りかかって来るかもしれない危害から
彼女を守った」

徐々に、妃の顔からさらなる狂気―否、嫉妬ともとれるどす黒い表情へと変わっていった。

「娘が十と三の年、王はその女を自らの元にまねきよせた。
彼は力を持つ新しき者と手を結び、
娘をワナのおとりに使い、
その悪魔の父をおとしいれ、
葬り去ったのじゃ…
彼はこうして娘をおのがものとして
手にすることができるようになった。
そして、娘がその悪魔の父から受けついだ力をも
自由にできるようになったのじゃ。
彼の力に対する欲望は、そのまま娘に対する欲望となった!
そして、妃であり、高位の聖職者であり、
一度は王その人の愛人でもあったわらわは、
すてられたのじゃ。
娘のせいで…
わらわはすべてを失った…
娘が十と四の年、娘は彼に自らの力の出自、
その生まれ出たなりゆきをたずねた。
彼はそれに答え、彼女のふしだらな母親と
悪魔の父のことを語ってきかせた。
娘はそこでひとつのことを望んだ…
彼らの死を望んだのじゃ!
まさに娘は悪魔の子であった!
娘はその母を死に追いやった!
その愛人にして、あの牧師だった男も
同様に死へと追い立てられた…
そして災いのペンの事件が起きた…
王がペンの望みを書き終わった
まさにその時、三つの出来事が起こった。
まずひとつ目は、わらわが死んだこと、
悪魔の娘のその手にかかったのじゃ…
二つ目は娘が子を宿したこと、
地獄から来た新しき呪われ子じゃ…
そして三つ目、
王自身が変わっていったのじゃ…
彼は不死を欲した…
だが、彼もまたペンの災いを
逃れることはできなかった…」

途中から哀しみの色に染まっていた妃の声は突然張り上げられる。

「わらわは彼らにつばをはきかけよう!
彼と娘とその子に!
わらわは彼らある限りやすまらぬ!
お前はやつらを葬り去るのじゃ!
やつらのうそを聞いてはならぬ!
やつらはお前をあざむこうとするじゃろう!
聞いてはならぬ!!
お前がやつらと戦うために、助けになる物を与えよう。
だがしかし、わらわの言葉を忘れてはならぬ!!
このかぎで娘が寝ている部屋に入り、
葬り去るがよい!
そしてこの聖なる品、やつらの力から
お前を守るこの品を持つがよい。
彼はお前を止めようとするだろう。
だが、これは彼をおしとどめよう…
さあ、行くのじゃ!
やつらにやられる前に、
やつらを葬りされ!

わらわのうらみを、晴らすのじゃ!!」

有無を言わさず、妃は銀の十字架を余に渡し―
そして亡霊は消え去っていった

王の墓に着いた。

アラムの君主 没年…

没年が書かれていたそこは、爪か何か細いもので滅茶苦茶に引っかかれているのが妙に不気味だった。
まだ、王は生きているのだろう。


部屋は使われておらず、まるで来るはずの者が
まだやって来ていないかのようにまっさらだった。

わずかに冷たい風が吹き抜けるのが感じられた。

「風…?」

来るとすれば、あの「死者の川」からだろうが…地下にまで達するだろうか?
我々以外の誰かがやってきたのだろう。
後続の、探索隊かとも思うが、それらしき足音は今まで聞こえていない。



その風がやむと、そこに何ものかがいるような気配がした。

「だれかお捜しかね?」

自信に満ち、力強い声が背後からひびいた。

「陛下?何かおっしゃられましたか?」

「余ではない…」


二人してあわてて振り返ってみると…


















そこには、だれもいなかった…

と、何かが”しなる”音がひびき、
今度は顔に冷たい風が吹きかかってきた。

そして、ついにそれが目に入った!

巨大な黒いコウモリが、まるで攻撃するかのように顔の前をよぎった。

「戦うつもりかね?」

「その意志は無い」

そう私と陛下が答えると、まるでこちらをためしているかのように、コウモリはもう一度飛びかかってきた。

咄嗟に武器を構えようとした陛下と私は、思わずその動きを止めてしまった。

次に起きたのは信じられないような、
まったく異常な光景で、
その素早さはあやうく見落としてしまいそうなほどであった。

突然、コウモリが消え失せ、その同じ場所に、背の高い、黒い人影が現れたのである…


「失礼して自己紹介をさせてもらおう。
私はこの城のあるじだ。

君たちは私の許可なく、無断でここに入ったようだが…
当然それなりの理由があるのだろう?
ここにやって来た…何故ここにいるのかな?」

「コズミック・フォージを求めて、来たのだ」
そう陛下が答えると、王は狂ったように哄笑した。
愚問だ、と言わんばかりに。

「再び問おう。何故ここにいるのかな?」

「…レベッカという娘だ。ここに居るだろう?」

陛下は軽い―挑発なさるつもりだったのだろう。
だが、それが王の逆鱗に触れたのは、火を見るより明らかだった。

途端、それまでどこか余裕のあった王は、牙のように突き出た犬歯を剥き出しにして吼えるように叫んだ。

「レベッカ? 
彼女のそばによるな!
わかったか!?
もし少しでも近づいたら、お前を殺す!!
おろか者っ!
近付くなと言っておいたであろう!」


そこまで叫ぶと、己の弱点を露呈してしまったのに気付いたのか、体裁を取り繕い、先程までの王者然とした雰囲気に戻った。
もっとも、殺気は今の方が強くなったような気がするが。

「君たちはまだ子供だ…
君は生き物の限界、君たちの限られた世界を
はるかにこえた物事にかかわろうとしているのだよ。
来たまえ!
君たちが立ち向かっているものが
何なのか、ためしに”味合わせて”あげよう!」



「うぐッ」

突然、陛下はその場に突っ伏してしまわれた。

「陛下ッ!お気を確かに…」

駆け寄った私は瞬時に、身をかわしたのは騎士としての直感からだった。
咄嗟に避けなければ、陛下の細身剣が私の腹部に深々と刺さっていたのだろう。

「…」

陛下の湖水の様に冴え冴えとした瞳は、凶暴な光が宿っている。
明らかに、私を「敵」と見なしている。
あの王が陛下に何かをしたのかは言うまでもない。
強力な催眠術を、陛下は受けられてしまったのだ。

「おのれッ!!“災いの王”ッ」

催眠術を解くには、施術している者を倒すだけでも効果がある。
一気に間合いを詰め、上段に構えた剣を振り下ろす。
人間だけでなく、今までの魔物たちとの戦いでも、この私の剣技を避ける事は出来なかった。
もっとも、今相手にしているものは、今までの魔物とは遙かに格の違う相手ではあるが…

「ハッハッハ…効くと思ったのかね」

何をどうされたのか、私の剣は虚空を斬っていた。
何故だ。
確実に、剣の切っ先は王を捕らえていた。
はずだった。
それなのに、手と視界が突然狂っていたのだ。




気付くと、王の姿は無かった。
そして、陛下はいつの間にか、気絶なさっていた。


「陛下!!陛下!!」

やっと目覚められた陛下は、正気を取り戻されていた。
何が起こったのかはまったく記憶に残っていないともおっしゃられた。

「ただ、ヤツの瞳が赤く光った途端、余の意識が飛んだのだ。…確かに、我らは、この世の範疇外にかかわろうとしているのであろうな」

ここで弱気にならないのが、陛下―そして、私だ。


部屋には「女王の鍵」と銘打ってある鍵を見つけた。


…女王…

あの、SMグッズを持っていた女か…


始め、その墓に入った時、先行隊とぶつかったのかと思った。
そこには、漆黒の甲冑の男が立っていたからだ。
オズワルド―ではなかった。

「我を滅ぼしたるは貴様らか…」

その手に握られているのは、アヴェンジャー(復讐者)と言われる剣だ。

ジオフリー・クレイトンの周りには、鈍色に光る甲冑に身を包んだ騎士たちがいる。
かつての彼の部下なのだろうか。
だが、鎧の中からは皮膚も骨も見えない。
恐らく、彼の部下の霊―が本体なのだろう。

鉄仮面の奥の顔はうかがいしれないが、恐らく恨みと怒りに漲った表情を浮かべているのは言うまでもないだろう。
私たちを、復讐のターゲットとして見ているようだから。

だが、勝負はあっさりと付いた。
私と姉さんが周囲の騎士の亡霊と斬り合っている間に、兄さんが一撃で黒騎士を倒してしまった。

やはり、ロビンの時と同じ様に彼は霧散してしまった。
そこに甲冑と剣を残して―

アヴェンジャー(復讐者)を持っている事からして、彼は恐らく最期の日、卑怯な方法で殺されたのかも知れない。
国一番の騎士だった事から考えると、何か大きな事件があって、それに巻き込まれてしまったのかも知れない。

だが、暗殺されてしまっている今、そして書物の多くが朽ちている今、真実は結局闇の中だ。
もっとも、私たちは“災いの王”やこの城の脱出方法を捜しているのだから、そんな事は些細な事。
アヴェンジャーだけを拾って、私たちはその墓を後にした。

薔薇のハイ・マイナードと言われたブリガードも同様だった。
どうやら、ここの守護者は死んでなお、王を守っているのだ。

さして苦戦もせず、戦いは終わった。
そして、そこから暗い通路が延びているのに気付かなければ、第四の守護者に会う事は無かっただろう。

ハイヤト・ダイクダは強敵だった。
鬼(確か、般若と言ったはず)の面をかぶり、異国の鎧を身に纏っている彼は、他の三人にくらべ、威圧感が凄まじかった。
その凄まじさは、太刀筋にも現れていた。
何よりもあの刀―あれは、幻とかつて言われていた『村正』ではないか!
気を抜けば、全員の首がすっ飛んでいる。

凄まじい鍔迫り合いに勝ったのは兄さんだった。
ムラマサとアヴェンジャーの鍔迫り合いの際、ジオフリーの執念が乗り移っていたのか、兄さんの気迫は鬼気すら感じさせる、凄まじい形相になった。
その途端、ムラマサは吹っ飛び、ハイヤトは皮肉にも“介錯”を受ける事となった。
ムラマサはその後、私が持つ事となった。

守護者たちの武具を手に入れ、私たちはいよいよ、核心に迫ろうとしていた。

手には「王の鍵」がある。

あの、王の墓へ入るのだ。


死者の殿堂内は、薄い青白い炎がともっている洋燈で多少視界は明るい。
だが、この世界では目に見える物よりも見えない物の驚異・存在の方が大きいのだ。
先程から、どこからか泣き声が聞こえる。
ああ…聞いたことがある。
あれは、バンシーだ。

死期が近付いた人間の前に現れるという、不吉極まりない亡霊だ。

それから、大量に転がっている白骨も今に動き出しそうだ。
正気を保っていられるかどうか、段々自分も不安になってきた。
だが、兄上は、意志が強いのか、只単にギーセルヘルの塔で見せたような宝漁り魂に火がついたのか、あちこちを探っている。
兄上…
下手して骨の平穏を


「すまん、テレジア。乱した…」


やはり…そういう展開か。
骨の平穏を乱すとは、前にもあった事だが、今回も亡霊たちが襲ってきた。
もっとも、この程度の亡霊は、自分たちの敵ではない。

そうだ。
自分がこんな不安を感じているのは、亡霊どもではない。

“災いの王”そのものの存在が恐ろしい程間近に迫っている様な気がしているからだ。

亡霊を倒した後、兄上が骨の間から何かを拾った。

「なんだこれは。ドローの鍵?」

しばらく、自分たちは殿堂内をさまよってみた。
そして、あちこちに特別に造られた墓を見つけた。


ロビン・ウィンドマーン
高地の射手。 第一の守護者

サー・ジオフリー・クレイトン
黒い騎士 第二の守護者

ブリガード・ダン・ウォルトン
バラのハイ・マイナード 第三の守護者

ロード・ハイヤト・ダイクダ
介錯兼用心棒。第四の守護者


かつて、この国に仕えた英雄たちの墓である事には間違いない。
ハイランダードロー…すなわち、ロビンの墓の鍵だろう。

「せっかく鍵が落ちていたんだ、入るぞ」

…兄上…

英雄の墓に入った時だった。
どこからともなく、重い声がした…


暗き夜に
死は訪れ
なんじのミノス
生をえん!

そして骨からよみがえった肉体が
しゃべった。

「ご主人様、お呼びにより参上いたしました!」

骨からよみがえったのは、若々しい美女―否、女エルフだった。
長い金髪が、闇の中で輝いている。
その途端、何かが頬をかすめた。
言うまでもない。
矢だ。

さすが英雄だけあって、彼女の矢はまるで次々と襲いかかってくる流星のようだった。
だが―
一気に間合いを詰めたフランソワの手刀で勝負はついた。


「…物騒な女だったな。それにしても、ロビンというのでてっきり俺は男だと思ったぞ」

フランソワの手によって倒されたロビンは骨すらも残さず、まるで霧の様に消えた。
その場には、彼女の愛用した弓と矢筒、それから、レンジャー最高の装備品とも言われる衣が残されていた。

まるで、自分たちがそれを使うに相応しい、と彼女が認めたかのように―

だが、レンジャー職についている者は誰もいないため、この場に残して自分たちは去る事にした。

次に、「騎士の鍵」を見つけた。
…おそらく、クレイトン卿の墓の鍵だろう。
さらに「バリキリーの鍵」(ブリガードの墓の鍵)までもが見つかった。

それでも、いくら捜しても最後の守護者の鍵は見つからなかった。

介錯であり、用心棒であるというハイヤト…
恐らく、最強の刀の持ち主であろう。
カロンが受け取り拒否した骨の壷を置きに、俺たちは死者の島にたどり着いた。

中は陰気そのものだ。
大量の死体に囲まれてると思うと、本当にぞっとしないな…。

八角堂の地下一階にあるその祭壇に骨の壷を置こうとしたとき、フランソワに止められた。

「まずは、これを備えておくべきだろう?」

それは、いも虫から買った線香だ。
あいつらしい、どうでもいい心遣いではあるのだが、線香を焚いてから壷を置いた途端、空気が変わった。

どこか安らかな、絶望の中で一条の希望を一瞬だけ垣間見たような心境というものによく似ている。


その祭壇の近くから長い回廊―『死者の殿堂』へと続く、に俺達は侵入した。

最奥の扉は鍵が掛かっている。

「恐らく近くに鍵が落ちているはずだ」

テレジアに言わせると、こういう場合、必ず近くに鍵が落ちているというのだ。
聞いてみたら「勘だ」と言われた。
どーして、女ってヤツは勘だの直感だので物事を測るんだ。理知的なテレジアでさえこうだ。

しかし、その勘は当たっていた。


近くの玄室―否、墓場に入った途端―


「ほう、わたしをみつけたというのかね?
お前のために我らはやって来たのだよ!」


不気味な声と同時に、墓場のスケルトンが襲いかかってきた。


完全に俺達は虚を突かれた。
静かすぎる程静かだったのに、いつの間にか、背後を大量のスケルトン兵士に囲まれ、一斉に襲いかかってきたのだ。
どこにいたのか、後で見たら壁の中から現れたようだ。
不気味なその声の主に気を取られたせいだったのか、身近な変化に気づけなかったのは、不覚としか言い様がない。

生者への憎しみや妬みをたぎらせながら、狂ったように骸骨たちは剣を振りかぶって襲いかかってくる。
完全な乱戦状態になってしまったので、テレジアやフランソワが無事かどうか分からなかった。
否、あいつらを気にしていられる状態では無かったのだ。

必死に骸骨たちを粉砕した時、全員無事だったのを安堵した時、その狂った骸骨の手に鍵があるのを見つけた。

鍵には骸骨の意匠が凝らされている。

「これだな、鍵は―」

何事もなく、テレジアはその鍵を(一旦骨に手を合わせてから)抜き取った。

「あの奥に、秘密があるだろう…」


カロンの言葉を思い出す。


この城の(かつての)主がこの島に生きながらえている事―
王妃の亡霊があの島で無念の叫びを続けている事―
例の、愛人であるレベッカが王と共にある事―


いよいよ俺たちは確信に近付いている。


鍵を開け、殿堂内へと足を踏み入れた。


その地下の墓地を埋めつくしているのが
冷たく青白い骸骨の山なのか、
それとも何か別の、身の毛がよだつような
恐怖なのかはわかならなかった。

しかし、ひとつだけ
確かなことがあった…

今いるところは、壮大な危険の程近くで、
それ以上に、何か邪悪な、何らかの
解答に近づいているという、
まちがいようのない感覚がしたのだ。

何かすべての中心となるものに…

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