ギルガメッシュの酒場―
リルガミンに住む者、いや、冒険者ならば有名な場所である。
冒険者達が集い、別れ、あるいはこれから向かう危険な【狂王の試練場】という迷宮への準備をする酒場だった。
そうした事もあって、地元民は決して近づかない危険な場所である。
下手に近づけば、柄の悪い冒険者たちに絡まれ、身ぐるみを剥がれる事など珍しくない。
近くの路地裏にうち捨てられた死体を警備兵が‘片づける’光景も当たり前である。
そんな酒場の片隅に、ラーナパーティーはいた。
「いよいよ陛下が今日お戻りになられる…」
事の発端は、地下10階の戦闘だった。
玄室に飛び込んだ時、モンスターが出なかったのだ。その一瞬の油断を―まさに玄室に潜んでいたヴァンパイア達は狙っていたのだ。
それは本当に誰もが予想していなかった事態だった。
ヴァンパイアの不意打ちを受け、皇帝が倒れ―
急所を攻撃された訳ではないので死亡は免れた。
だが、麻痺と2レベルダウンは大きな痛手だった。
幸い、レベルは下がったものの元から能力が高めであった皇帝はこれを機に戦士から君主(Lord)になることを決意したのだった。
リルガミンの城下町に戻った後、訓練所へと皇帝は単身向かった。
一日もあれば転職は完了する。
ギルガメッシュの酒場にて待ち合わせていた彼等は今か今かと待ち望んでいた。
「待たせたな」
その声に振り返ると…
「陛下!!」
確かに君主(Lord)となったのは一瞬で分かった。
だが…
「お父様…以前より頬がそげられませんか?」
「気のせいだ」
「その…お痩せになられた様ですが…」
「それも気のせいだ…それよりも、今からマーフィー部屋にいく。オズワルド、ミカエル…供をしろ」
そう言うと、前衛3人は酒場を後にする。
「ビスルクアス。貴方、一度訓練所で転職した経験がありますよね?一体、あそこでは何が行われているんです?」
「それは答えかねます。申し訳ございません」
「何故です?」
「転職経験者は、決して訓練の内容を口外してはならないと言われておりますので答えられませぬ」
その言葉にマルガレーテは戦慄した。
一体訓練所で、父の身に何が起こったのだろう。
頬がそげていたばかりではない。どことなく、ぐったりと疲れ果てていたのだ。
常に覇気と威厳に満ちていた父のあんな姿をマルガレーテは見たことが無い。
転職―職を変えるはいいが、ほとんどの者は能力が最低限にまで落ちている。
肉体的に衰え、知恵を失い、神を信じる思いまでがつぼみ、さらには運に見放される―
否、それ以前に訓練所で何人かは登録した後身ぐるみを剥がれた挙げ句、登録を抹消され、事件自体が隠蔽されているのだ。
あそこで何が起きているのか―それを想像するだけでマルガレーテは震えが止まらなかった。
数日後にマーフィーズゴースト狩りから戻り、いつもの父を見るまでは―
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