皇帝フリードルム二世の日記
あの遺品の1つ―魔法使いの鍵は、洞窟の奥にあった鉄格子(恐らく監獄として使われた物でもあろう)の錠前を開くためのものだろう。
その余の考えは当たっていた。
片っ端から外していた時―ちょうど、北東の最奥の扉を開いた時だった。
「陛下ッ!!」
オズワルドがかばってくれなければ、余はその一撃を食らっていたかも知れない。
突然、影の中から巨大な蛇が飛び出してきて、こちらに向かって突進してきたのだ。
咄嗟に身構えるが、なかなか蛇は襲ってこない。否、それ以上攻撃の姿勢をみせようとせず、なんと人語でこちらに語りかけてきたのだ。
「いやぁ、そろそろ誰かが助けに来てくれる頃だって思ってたんだ!
どれくらい長いこと、
おいらがここに閉じ込められてたと思う?
エェ!? わっかんねえだろ!?
百と二十年だぜ! なんてこったい!
ゾーフィタスの大ボケ野郎に、この尻尾が届くんなら、あんチキショウをギッタンギッタンにのしてやるのによぉ!」
呆然としてる我々に、蛇は‘会釈’した。
「おっと、失敬……
どうもありがとヨ、おめえさんのおかげで助かった。
おいら、ミスタファファスっていうんだ。
昔はゾーフィタスって魔法使いの弟子やってたんだが、
ちょっとした事であいつにここに閉じ込められて、
オマケにそのことを忘れちまいやがって…ああ、わかってるって。
おめえさん、なんでっこんなでっかい蛇が、すげぇ魔法使いの弟子なんかになれたか、わかんねぇんだろ?
教えてやるよ! おいら、本当は蛇なんかじゃねえんだ!
っていうか、少なくともあのどーしよーもねえ、呪われたペンが現れるまではそうじゃなかった!!
ちっきしょう! 考えただけで鳥肌が立ってくる! おいら、ちょっと忍び込んで、アレを一回使っただけなんだ!
お妃のお気に入りにしてもらいたくて、ちょいと
"さっそうと"していて
"カッコよく"してほしいって…
それと王様にやきもち焼かれないように
"安全"に過ごしたいって書いたんだ。
それがどーだい!?
お妃様がことの外蛇が御好きだっていうんで、
おいら蛇に変えられちまったんだ!
で、魔法使いの野郎がおいらをここに閉じ込めたんだ。
ペットにでもするつもりだったんだろうが、
おかげで王様からも安全ってわけだ!!
全く、あのどーしよーもない大ボケのペンめッ!」
120年も生きていたのか。
人間だろうが蛇だろうが、不自然である。
もしかしたら、これもペンの呪いなのだろうか。
死ぬに死ねず…という、災厄なのかもしれない。
一通り言いたい事を言ったのか、ミスタファファスは一息ついていた。
孤独感に相当苛まれていたのであろうな。
あの一気に捲し立てたのも…。
とりあえず、こやつから何か情報を得られるのではないかといくつか質問する事にした。
「ペンとはコズミック・フォージであろうな?」
「あの呪われたペン!
もしこの辺りにあるんなら、おいらここから逃げるぜ!」
「ペンの呪いとはなんだ?」
「ベイン・オブ・ザ・コズミック・フォージ
ペンを使ってみな!
蛇になるよりもっとひでえことだってあるぜ……」
「ゾーフィタス……奴は何者だ?」
「ゾーフィタスは、さっきも言ったとおりかなりの魔法使いだ。
少なくとも昔はそうだった。奴ならどんな呪文でも知ってるだろう」
「王とはあの城の王なのか?」
「ああ、王様ね……知らん!
気にしたこともない! それより食いもんねえか?」
「食い物なら手元に手ごろなのがあるが、
その前にもう一つか二つ答えて欲しい。
お妃様というのは?」
「王様の妃! あの方は爬虫類がお好きだ……
彼女に何が起きたのかは知らない」
…
SM気のある上には虫類好きか…
あまりまともな女じゃなさそうだな。
それともう1つ…
城主に囲われた女―レベッカについても聞かなければ。
「噂に聞いたレベッカというのは?」
「それはなんのことだい? 知らん。気にしたこともない」
「そうか。では、受け取るがよい」
そういって、余はミスタファファスに焼きトウモロコシを与えた。
スミッティーの店で病みつきになったので大量に買い込んで置いたのだ。
奴は体をくねらせて、焼きトウモロコシを丸呑みした。
「うぅぅーん。なんてうめぇんだ!」
しばらくがっついた後、やっとミスタファファスはそう言った。
「こいつはお礼をしなきゃいけねぇ!
魔法使いの住処を探って、それから"目"をどうにかするんだ!」
「魔法使いの住処は何処だ?」
「ゾーフィタスの住処は城の地下、しゃれこうべのドアの近くだ。
住処に入るには魔法の指輪がいるんだ」
「魔法の指輪? これか」
「ゾーフィタスは住処に入るのに指輪を使ってた。
ネコに引っかかれんなよ!
奴は住処に呪文を隠している」
「"目"をどうするのだ?」
「しゃれこうべのドアだよ! あけるには宝石が二ついる。
ゾーフィタスは死を封印するためにそいつを隠した!」
「死を封印? どういう事だ? 」
「しゃれこうべのドアは死へ通じる!
死がドアの向こうで待ってるよ!」
「そうか。情報提供ご苦労」
「じゃあな! がんばれよ!」
そう言い、ミスタファファスは昼寝でもするつもりか、するすると奥の隙間に身を滑り込ませていった。
それにしても…
この間のゾーフィタスといい、弟子のミスタファファスといい、
あのペン―コズミック・フォージには迂闊に手を出さぬ方がよい―
『そのペンを使って描かれた願望は叶う』
非常に魅力的なのだが…
代償が大きすぎる…
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