皇帝フリードルムの手記
地下二階にある髑髏の扉に宝石をはめ込み、
近くにある部屋へは魔法使いの指輪を使って鉄格子を開いた。
なるほど、ここが…ゾーフィタスの部屋か。
鉄格子の先にあるドアには、次のように書かれていた。
「魔法使いの住処 ネコに注意」
ミスタファファスの言っていた猫とは、ゾーフィタスの飼い猫の事だろう。
魔法使いの猫の事だ、一筋縄ではいくまい…
中に入ると物音一つせず、極めて平和そうだった。
しかしそれは、地獄から悪魔ネコがやってくるまでの話だった。
大型犬よりも一回り大きい体格に、魔法の力か、透明化する緑の毛並みを持つその猫は、確かに悪魔ネコそのものだった。
非常に素早い動きでこちらを翻弄し、口から炎を吐きつつ、此方の背後を狙いながら引っかいてきた。
炎は小さなものだったが、盾のみでは防ぎきれず、爪の一閃で鎧の留め具が弾けた。
もうこの鎧は使い物にならないな…。
あの一撃が首に決まったと思うと…ぞっとする。
さてどうする。
この強敵を相手に、いきなりオズワルドは奴の前に立ちはだかった。
どう見ても、それは攻撃を受けるためのものとしか考えられない。
後で聞いたが、この手の魔物と戦う際には、敵の直接攻撃をわざと待って反撃するカウンターが効くのだという―
どっちにしろ危険過ぎる。
すると、オズワルドが正面に立ちはだかった事に相手はまんまとのせられた。
獲物の喉笛めがけ、猫は飛び掛かってきた。
迫り来る爪を正面から受け止め、同時にオズワルドも大剣を相手の眉間を狙って振り上げた。
悪魔猫の爪はオズワルドの左上腕と肩付近を切り裂き、オズワルドの大剣は相手の頭部へ食い込んだ。
間髪入れず、余は「ディープフリーズ(最強水系魔法)」にて悪魔猫を凍死へと誘った。
なんとか勝ったが…
意外とオズワルドの傷が深いため、少しだけ休憩をとることとした。
余があまり責めるものだから、オズワルドはかなり殊勝な態度となっていた。
言い過ぎたかな…
しかし、大事なオズワルドを見殺し、否、むざむざと悪魔どもの餌食にするなどと…考えたくもない…。
ふと、部屋を一通り見渡すと、四つの箱が置いてあるのを確認した。
確かこの部屋には、魔法があるとミスタファファスは言っていた。
余はその四つの箱に手をつけた。
罠を作動させないよう慎重に開けた宝箱の中には、魔法の書物や巻物、それに日記と塔の鍵を見つけた。
おそらくゾーフィタスの日記だろう。
何かこの城の秘密が記されてるかもしれないという期待から、余は読んでみることにした。
魔法使いの日記には、次のようなことが記されていた。
幸い、我々の使う文字と同じだったので簡単に読めた。
星の月 17の日
ついに、死体再稼動の実験で成功を収めた!
哀れな実験台は、牧師に連れられてやってきた女で、かの悪魔娘の淫らな母親だった。
死んでからもう三日も経っていながら、その女はもう一度息をし、歩き、見ることが出来るようになった。
これで心や魂まで再生することが出来ればよかったのだが、残念なことにその方法はない。
女は今や抜け殻だ。何か処置の方法が見つかるまで、女は城の塔の一つに閉じ込めておくことにする。
兎に角この成功を糧にして、次なる実験台が現れるのを待つとしよう。
星の月 23の日
ついにこの間、打ち首となった気の触れた牧師は、私の最新のテーマである霊体分離にとって、素晴らしい実験となった!
かの者の首に斧が振り下ろされたまさにその時、私はその魂が、この世から離脱できないように呪文をかけた。
かの者の心と魂を捕らえることができたことで、私のアイディアが間違っていないことが確かめられた。
生と死を思うが侭に操り、不死を得られるようになるのも、そう遠い先のことではないだろう。
そのときまで、"霊封じ"の力で牧師の霊は城のもう一つの塔に閉じ込められる。
どこかの愚か者が間違ってこの霊を解き放ったりしないように、鍵はここに隠しておくとしよう。
月の月 4の日
ついに我々はコズミック・フォージへ通じる隠された門を発見した!
これでペンまで後一歩だ!
すぐに旅立ちの支度をしなければならない。今夜、我等は飛ぶのだ!
月の月 13の日
フォージを盗まれた!
私のずるがしこい弟子、ミスタファファスの姿が見えない。
どこかにいるらしいという手掛かりすらない。
呪文を使って所在を突き止めようとしたがダメだった。
何度矢っても、あの食い過ぎの蛇の巣にいるという結果しか戻ってこない。
アレに食べられてしまったと考えるしかなさそうだ。
月の月 16の日
いよいよ"ペン"で何を書くかを決めた!
これで私は、王を終わらざる死へと誘った呪いから逃れられるはずだ……今夜、私はわが運命を刻み込む!
それが最後の文字だった。本には白いページが続いていた。
読み終わると、日記の綴じ代が解れ、バラバラになってしまった。
ふと、余はここに来る前に立ち寄った部屋の事を思い出した。
そこには、頭に穴を穿たれた大量の白骨死体が山の様に積み上げられていた。
恐らく…脳の手術、否、実験の被験者たちのなれの果てだろう。
悪魔のようなゾーフィタスの所業に、余は慄然とした。
いくらなんでも…このような人体実験は…。
ふと、塔に閉じこめられていた、あの死体の事を思い出した。
余のディスペルアンデッドを完全に無効化した…orzあのゾンビだ。
あれは―
まさか女…!
それも、ゾーフィタスの、人体稼働のためわざと殺され、肉体だけ現世に呼び起こされ―それも中途半端過ぎる状態で…。
ということは、反対側の塔には日記にあった、例の牧師の霊魂があるのだとでもいうのだろうか。
さらに探ってみると、部屋の横には何かのボタンがあり、押してみるとその先には倉庫があった。
物置の中を覗いてみると、隅のほうに曲がった杖が置き去りになっていた。
明らかにその存在自体が忘れられていたらしい。
これは使えるかもしれない。
余はその杖を手に入れ、横にあったスイッチを押して更に奥へと進んだ。
すると、また変わったものが置いてあった。
テーブルいっぱいのポーション、ビン、その他の薬品の山は戻ることの無い主のことをじっと静かに待っているかのようだった。
容器のうちいくつかは壊れておらず、よく密閉されていて、中身も悪くなかったり黒い塊になったりしていなかった。
テーブルの上にはその他に奇妙な小さい木の棒があり、その片方の端は赤く塗られていた。
残念ながら、ウィッグ神教はこうした錬金術を迫害してるので、余はあまりよく知らないのだが、なんでも錬金術師はこうした薬品を調合して、エリクサー(またの名をアニマムンディ)とやら不老不死の薬を作るらしいな。
何の知識もなく薬品を混ぜるということは非常に危険だったので、
混ぜることはしなかったが、物色してみることにしてみた。
赤、青、緑の薬に白い粉、それにこの赤い棒。
この赤い棒は一体なんなのだろうか。
手甲越しに触れてみても別段何も起こるわけではない。
白い粉につけてみても何か起こるわけでもなかった。
しかし、白い粉につけてから何かの摩擦があったのだろうか。
それは勢いよく燃え始めた。
オズワルドの顔が(仮面をかぶっているのだが)真っ青になっているのに気付いた。
どうやら、失敗したらしい。
そう思ったのは、余だけではない。
ほぼ同時に二人で逃げたその時、後ろで爆発音がした。
熱風と、いくらかの破片が背中に当たって痛い。
自業自得だが…
後ろを振り返ってみると、そこには壁に穴が開いていた。
その階段には見覚えがあった。下ってみると、
採掘場に繋がっていたのだった。
なるほど。
ジャイアントマウンテンとここは繋がっていたわけか。
よかった…
とりあえず、最悪の事態は避けられたようだ…(爆)
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