気付いた時、私たちは牢屋に入れられていた。
悪魔の娘、レベッカに催眠術にかけられ王に首を噛まれる直前―
私の手に握られていた銀の十字架が、私だけでなく兄さんたちを守ったのだ。
怒った王は、私たちを睨み付け、失神させた―
そこまでは覚えている。
後は、悪夢だけしか記憶に無い。
ふと、鉄格子の外を見ると、気味の悪い雄羊の仮面を被った監守たちがこちらを睨み付けている。
見れば、私たちは主立った装備品を取り上げられてしまっている。
兄さんも姉さんもようやく気付いたが、全員まだ催眠術の余韻が残っているのか頭がフラフラしていた。
何とか、気分を直そうと、用意されてる飲料用であろう水桶を見たが―
…飲もうとした時、異臭に気付いて良かった。
それは毒入りだった。
「どうする?…武器も無いし、出る方法も無い」
誰もいい案は浮かばない。
部屋を見渡すと、壁の床ぎわに小さな裂け目があった。
その大きさは、ちょうどネズミが
通り抜けられるほどのものであった…
「…ネズミにでもなれば、抜け出せるよな…」
馬鹿げてる、と兄さんが言おうとした時だった。
―ちっこくなるヤツを試してみんかね?
あの芋虫から貰った赤いキノコを思い出した。
幸い、何の害にもならないと王が判断したのか、私のベルトに吊された小物入れに入っていた。
「…やばそうな色だな」
と兄さんは言ったが、思い切って、私たちはそれを三つに裂いて口に含んだ。
段々、周りが大きくなってきている―と感じたが、私たちが小さくなっていたのだ。
大急ぎで、私たちは穴めがけて疾走した。
もう少し穴に近い所で食べるべきだったと思った。
一般的な人間で一歩にも満たないその場所に行くのに、時間がちょっとかかってしまったのだから。
さらに悪い事に、監獄で―弱った人間を餌食にしているであろうネズミに見つかったのだ。
ただでさえ丸腰の私たちが、小人状態で勝てるわけが無い。
ブランディング・フラッシュを唱え、ネズミたちが面食らう隙を突いて何とか穴を通り抜けた。
顔に冷たい空気を感じた時、辺りが急に小さくなっていた。
否、キノコの効果が解けたのだ。
「さっさと出て正解だったな」
本当だ。
もし穴の途中で効果が切れたら、無様にもあそこにはまってしまっただろう。
だが、安堵している暇はなかった。
穴から出てきた後、俄に中の様子が騒がしくなったのだ。
急に囚人が目に見えない程小さくなり、逃げ出したのだから。
「あの森に逃げ込むぞ!」
姉さんの指示は正しかった。
だが、ある意味で危険過ぎた。
そこは「魔法の森」と呼ばれる、魑魅魍魎が跋扈する暗黒の森なのだから。
もう、後にも先にも危険しか無い―
私たちの城からの脱出はますます絶望的なものになっていたのだ―
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